【ITニュース解説】I built a cycle-accurate SAP-3 8-bit CPU emulator in TypeScript with real-time visualization
2025年09月07日に「Reddit /r/programming」が公開したITニュース「I built a cycle-accurate SAP-3 8-bit CPU emulator in TypeScript with real-time visualization」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
TypeScriptで8ビットCPUエミュレータを開発した。これは、CPU内部の動作を詳細なタイミングで忠実に再現し、リアルタイムで視覚的に表示する。ブラウザ上で動き、データ流れをインタラクティブに観察できるため、CPUの仕組み学習に役立つ。
ITニュース解説
ある開発者が、SAP-3という8ビットCPUのエミュレータをTypeScriptというプログラミング言語で構築し、その内部動作をリアルタイムで視覚的に確認できる機能を実装した。このプロジェクトは、コンピュータの基本的な構造であるコンピュータアーキテクチャを深く理解することを目的として始まり、最終的に多機能なエミュレータへと発展した。
CPUエミュレータとは、実際のCPU(中央演算処理装置)がどのように動作するかをソフトウェア上で再現するプログラムだ。これにより、物理的なCPUを用意することなく、そのCPUが実行する命令やデータ処理の流れを観察・検証できる。今回再現されたSAP-3は、シンプルな構造を持つ教育用のCPUモデルであるSAP-1を拡張したものだ。SAP-1が持つ基本的な命令セットに加え、SAP-3はプログラムの実行位置を一時的に記憶するスタック操作、メモリ上のデータに柔軟にアクセスするインデックスアドレッシング、特定の条件で処理の流れを変える条件付きジャンプなど、より実用的なCPUの機能を取り入れている。これにより、CPUがどのように複雑な処理を実行するかを、基本的なレベルから段階的に学ぶことが可能になる。
このエミュレータの技術的な特徴の一つに「サイクルアキュレートな実行」がある。CPUは非常に高速に命令を実行するが、その命令はさらに細かい「マイクロ命令」という単位に分解され、クロックサイクル(CPUの動作の基準となる最小時間単位)ごとに処理される。「サイクルアキュレート」とは、このクロックサイクル一つ一つにまで忠実にCPUの動作を再現していることを指す。これにより、CPU内部のレジスタ(一時的なデータ記憶場所)やALU(演算論理ユニット)といった各部品が、どのクロックサイクルでどのようなデータを処理しているかを、非常に詳細なレベルで追跡できる。これは、実際のCPUの動きやデータフローを深く理解する上で極めて重要だ。
そして、このエミュレータの最も注目すべき機能は「リアルタイム可視化」だ。通常、CPUの内部動作は目に見えないが、このエミュレータではブラウザ上に表示されるインタラクティブな回路図を通して、その動きを視覚的に捉えられる。プログラムの命令が実行されると、回路図上の関連する部分が点灯し、データがレジスタからALUへ、またはメモリへと流れていく様子がリアルタイムで確認できるのだ。システムエンジニアを目指す初心者にとって、抽象的で理解しづらいCPUの内部動作をこのように具体的に「見る」ことができるのは、学習において非常に大きな助けとなる。データがどのように処理され、どこに格納されているのかを視覚的に追うことで、コンピュータがどのように機能しているかについての直感的な理解が深まる。
このエミュレータは、TypeScriptというJavaScriptの拡張言語で実装されており、大規模な開発でコードの品質と保守性を高めるのに役立っている。ユーザーインターフェースにはReactというライブラリが使われ、CPU回路図の描画にはSVG(Scalable Vector Graphics)が用いられている。状態管理にはZustandというライブラリが採用され、エミュレータ全体の複雑な状態を効率的に管理している。
さらに、このプロジェクトでは独自の「カスタムアセンブラ」も開発された。アセンブラとは、人間が書いたアセンブリ言語のプログラム(CPUが直接理解できる機械語に近い低レベルな言語)を、CPUが実行できる機械語に変換するソフトウェアのことだ。このカスタムアセンブラは、プログラム内の特定の場所を示す「ラベル」の自動解決や、繰り返し使われる命令の塊を一つの名前にまとめて利用できる「マクロ」をサポートしており、より効率的で読みやすいアセンブリプログラムの作成を可能にしている。
一般的な8ビットCPUは、扱えるメモリの容量に制限があり、SAP-3も基本的には256バイトまでのプログラムしか直接扱えないという制約がある。しかし、このエミュレータには「バンキングシステム」が実装されており、複数のメモリバンクを切り替えることで、見かけ上利用できるメモリ空間を拡張し、256バイトを超えるような大きなプログラムでも実行できるよう工夫されている。これは、古いコンピュータシステムでメモリ制限を乗り越えるために実際に使われていた技術だ。
また、開発者は「WebSocket」という技術を利用し、エミュレータで動かすプログラムを他のユーザーと共有できる機能も追加した。これにより、共同で学習したり、作ったプログラムを簡単に共有してテストしたりすることが可能になる。
このSAP-3エミュレータは、単にCPUを再現するだけでなく、その内部構造と動作を視覚的に、そして詳細なレベルで理解するための強力な学習ツールとなっている。コンピュータの仕組みの根幹をなすCPUアーキテクチャについて、実践的なアプローチで深い知識を得るための素晴らしい例と言えるだろう。