【ITニュース解説】Switzerland releases its own AI model trained on public data

スイスが「Apertus（アペルトゥス）」という独自の人工知能（AI）モデルを発表したことは、AI技術の進化と利用方法の多様化を示す重要な動きである。このApertusモデルは、OpenAIが提供するChatGPTやAnthropicのClaudeのような、特定の企業が開発し、その内部構造が一般に一般に公開されていない「プロプライエタリモデル」とは異なり、「オープンソースモデル」として開発された点に大きな特徴がある。

AIモデルとは、人間が使う自然な言葉を理解し、文章を生成したり、質問に答えたりする能力を持つコンピュータプログラムのことだ。特に、近年のAI技術の進歩を牽引しているのが「大規模言語モデル（LLM）」と呼ばれるもので、これは膨大な量のテキストデータを学習することで、高度な言語処理能力を獲得している。ChatGPTやClaudeは、その代表的な例である。これらのモデルは、ユーザーが入力したテキスト（プロンプト）に対して、まるで人間が書いたかのような自然な文章を生成できるため、ビジネスから日常生活まで幅広い分野で活用され始めている。

しかし、これらのプロプライエタリモデルには、いくつかの懸念も存在する。例えば、モデルの内部でどのように推論が行われているか、どのようなデータで学習されているのか、といった詳細が公開されていないため、その公平性や透明性が完全に保証されているとは言い切れない。また、特定の企業に依存することになるため、利用ポリシーの変更やサービス停止といったリスクも考えられる。

こうした状況に対して、Apertusのようなオープンソースモデルは、その代替として注目されている。オープンソースとは、ソフトウェアのソースコード（プログラムの設計図のようなもの）が一般に公開され、誰もが自由に利用、改変、再配布できる形式を指す。Apertusの場合、そのソースコードだけでなく、モデルの学習に使われたデータ、そしてモデルの性能を決定づける「モデルの重み（ウェイト）」と呼ばれる内部パラメータ、さらには開発の詳しいプロセスまで、すべてがAIモデルの共有プラットフォームであるHuggingFace（ハギングフェイス）上で公開されている。

これにより、システムエンジニアを目指す人々や研究者、企業は、Apertusの動作原理を詳細に検証し、セキュリティ上の問題点がないか確認したり、自分たちの特定の用途に合わせてモデルをカスタマイズしたりすることが可能になる。例えば、特定の業界用語に特化した学習データを追加して、より専門的な質問に答えられるように改良したり、モデルの一部を修正して、性能を向上させたりといった自由な開発が行えるのだ。これは、透明性の向上だけでなく、AI技術の民主化、すなわち誰もがAIの開発や利用に参加できる環境を促進することに繋がる。

Apertusという名前は、ラテン語で「開かれた」を意味する言葉であり、その名の通り、透明性とアクセシビリティ（利用しやすさ）を重視するスイスの姿勢が反映されている。スイスが自国でAIモデルを開発し、それをオープンソースとして公開する背景には、国のデータ主権を守り、自国の文化や言語、価値観に合わせたAIを育成したいという意図があると考えられる。特定の国のAIモデルに過度に依存するのではなく、自律的にAI技術を進展させることで、将来的なリスクを軽減し、国民のプライバシーやセキュリティを確保することも目的の一つだろう。また、公共のデータを用いて学習されている点も重要である。これにより、特定の企業の意図や偏見が入り込むリスクを低減し、より中立的で信頼性の高いAIモデルを目指していると解釈できる。

AI開発においてHuggingFaceのようなプラットフォームの存在は非常に大きい。HuggingFaceは、世界中のAI開発者が自作のモデルやデータセットを共有し、協力してAI技術を進化させるためのハブとなっている。Apertusがこのプラットフォームで公開されたことで、スイス国内だけでなく、世界中の開発者がApertusを利用し、さらに改良を加えたり、新たなアプリケーションを開発したりするきっかけになるだろう。これは、オープンソースソフトウェアがこれまで多くの技術革新を生み出してきたように、AI分野においても新たなイノベーションを促進する可能性を秘めている。

スイスのApertusの発表は、AI技術が特定の企業や国家の独占物ではなく、より開かれた形で社会全体に貢献していくべきだというメッセージを強く発信している。システムエンジニアを目指す人々にとって、このようなオープンソースのAIモデルに触れることは、AIの仕組みを深く理解し、実際にコードを読んで動かし、改良する貴重な学習機会となる。AIの透明性、倫理、そして多様な社会貢献の可能性について考える上で、Apertusのようなプロジェクトは、今後のAI開発の方向性を示す重要な指標の一つとなるだろう。AI技術が社会に深く浸透していく中で、このようなオープンな取り組みが、より安全で信頼できるAI社会の実現に寄与することが期待される。