IGRP(アイジーアールピー)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
IGRP(アイジーアールピー)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
内部ゲートウェイルーティングプロトコル (ナイブゲートウェイルーティングプロトコル)
英語表記
IGRP (アイジーアールピー)
用語解説
IGRPは、Interior Gateway Routing Protocolの略称であり、シスコシステムズ社が1980年代に独自に開発したルーティングプロトコルである。主に、RIP(Routing Information Protocol)が持ついくつかの制約を克服することを目的として設計された。IGRPは、ディスタンスベクター型のアルゴリズムを採用しており、AS(Autonomous System)と呼ばれる単一の管理組織が運営するネットワークの内部、すなわち内部ゲートウェイプロトコル(IGP)として利用される。現代のネットワーク環境においては、後継プロトコルであるEIGRP(Enhanced IGRP)や、OSPFなどの他のプロトコルにその役割を譲り、既に使用されることはないが、ルーティングプロトコルの進化を理解する上で重要な技術である。
IGRPの詳細な動作を理解するためには、まずその特徴であるディスタンスベクター型アルゴリズムとメトリックについて知る必要がある。ディスタンスベクター型とは、ルーターが隣接するルーターから「どのネットワークへ、どのくらいの距離で到達できるか」という情報(距離ベクトル)を受け取り、それを基に自身のルーティングテーブルを更新していく方式である。IGRPは、定期的に(デフォルトでは90秒ごと)、自身が知っているすべての経路情報をブロードキャストまたはマルチキャストで隣接ルーターに通知する。この情報交換を繰り返すことで、ネットワーク全体の経路情報が各ルーターに行き渡る仕組みとなっている。
IGRPがRIPに比べて優れていた最大の点は、経路選択の基準となるメトリックの複雑さにある。RIPが宛先ネットワークまでのルーターの数、すなわちホップカウントのみをメトリックとして使用するのに対し、IGRPはより現実のネットワーク状況を反映した複合メトリックを採用している。IGRPがデフォルトで使用するメトリックの要素は、経路上で最も低い帯域幅(Bandwidth)と、経路上の遅延(Delay)の合計値である。これら二つの要素を特定の計算式に当てはめて経路のコストを算出する。これにより、たとえホップ数が多くても、高速な回線を経由する経路を最適経路として選択することが可能になる。さらに、オプションとして、回線の信頼性(Reliability)、負荷(Load)、そしてMTU(Maximum Transmission Unit)もメトリックの計算に加えることができ、管理者はネットワークの特性に応じて、より詳細な経路制御を行うことができた。
また、IGRPはRIPの最大ホップ数15という制限を大幅に拡張し、デフォルトで100、最大で255ホップまで対応可能であった。これにより、RIPでは構築が困難であった、より大規模なネットワークにも適用することができた。しかし、IGRPにはいくつかの大きな課題も存在した。その一つが、クラスフルルーティングプロトコルであるという点である。クラスフルとは、ルーティング情報を交換する際にサブネットマスクの情報を含めない方式を指す。この仕様のため、IGRPはVLSM(可変長サブネットマスク)やCIDR(クラスレスドメイン間ルーティング)といった、IPアドレスを効率的に利用するための現代的な技術に対応することができなかった。ネットワークの規模が拡大し、IPアドレスの枯渇が問題視されるようになると、このクラスフルであるという制約は致命的な欠点となった。
もう一つの課題は、ディスタンスベクター型プロトコルに共通する問題である、ネットワークトポロジーの変更に対する収束の遅さである。ある経路で障害が発生した場合、その情報がネットワーク全体に行き渡るまでに時間がかかり、その間、誤った経路情報に基づいて通信が行われ、ルーティングループが発生する可能性があった。IGRPは、ホールドダウンタイマーやスプリットホライズン、ポイズンリバースといったループ防止機構を備えていたが、大規模で複雑なネットワークにおいては、収束時間の問題は依然として残っていた。
これらの課題を解決するために、シスコシステムズ社はIGRPを拡張したEIGRPを開発した。EIGRPは、IGRPの複合メトリックの概念を継承しつつ、クラスレスルーティングに対応し、DUAL(Diffusing Update Algorithm)という独自のアルゴリズムを採用することで、非常に高速な収束を実現した。このEIGRPの登場により、IGRPはその役目を終え、シスコ社のルーターOSであるIOSのバージョン12.3以降ではサポートが終了している。したがって、現在IGRPが新規に導入されることはなく、歴史的な技術として位置づけられている。システムエンジニアを目指す者にとって、IGRPを学ぶことは、ルーティングプロトコルがどのように進化し、現代の技術がどのような課題を克服してきたのかを理解するための重要な一歩となる。