仮想プライベートクラウド(カソウプライベートクラウド)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
仮想プライベートクラウド(カソウプライベートクラウド)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
仮想プライベートクラウド (カソウプライベートクラウド)
英語表記
Virtual Private Cloud (バーチャル プライベート クラウド)
用語解説
仮想プライベートクラウド(VPC)とは、パブリッククラウド上に構築される、ユーザー専用の論理的に隔離されたネットワーク環境を指す。これは、あたかも企業が自社データセンター内にプライベートなネットワークを構築するかのように、パブリッククラウドの共有インフラストラクチャ上で、仮想的に独立したネットワーク空間を作り出す技術である。ユーザーは、このVPC内で仮想サーバー、データベース、ストレージなどのクラウドサービスをプロビジョニングし、自身のアプリケーションを安全に運用できる。パブリッククラウドが提供する高いスケーラビリティや可用性といった恩恵を受けつつ、プライベートクラウドに近いセキュリティと制御性を実現するための重要な基盤となる。
VPCは、パブリッククラウドプロバイダーが提供する巨大な共有ネットワークの中から、ユーザーが指定したIPアドレス範囲を持つネットワーク空間を論理的に切り出すことで機能する。この切り出された空間は、他のユーザーのVPCやパブリックインターネットから完全に分離されており、ユーザーは自身のVPCのネットワーク構成、IPアドレスの割り当て、ルーティング設定、およびセキュリティポリシーを自由に定義・管理できる。
VPCの核となる要素の一つは、ユーザーが選択するプライベートIPアドレス範囲である。この範囲は、VPC内で利用される仮想リソース(仮想サーバーなど)に内部的に割り当てられるIPアドレスの集合を決定する。次に、VPCはこの大きなIPアドレス範囲をさらに小さな論理的な区画である「サブネット」に分割できる。サブネットは、例えばWebサーバー用、アプリケーションサーバー用、データベースサーバー用といったように、役割に応じてリソースを論理的に分離するために使われる。
ネットワークの境界には、ファイアウォール機能を提供する「セキュリティグループ」や「ネットワークアクセス制御リスト(ACL)」が適用される。セキュリティグループは仮想サーバーなどのインスタンスレベルで、ACLはサブネットレベルで、許可または拒否する通信の種類(ポート番号やプロトコルなど)を細かく制御できる。これにより、外部からの不正アクセスを防ぎ、VPC内部のリソース間の通信も厳密に管理することが可能となる。
VPCをインターネットに接続するためには、「インターネットゲートウェイ」が利用される。これにより、VPC内のリソースはパブリックIPアドレスを介してインターネットと通信できるようになる。また、VPC内のリソースがインターネットに接続するものの、インターネットから直接アクセスされたくない場合は、「NATゲートウェイ」や「NATインスタンス」を通じて、内部のプライベートIPアドレスを隠蔽しつつ、インターネットへのアウトバウンド通信を可能にする。
さらに、企業が既存のオンプレミス環境(自社データセンター)とVPCを安全に接続したい場合、「VPN接続」や「専用線接続(Direct Connect、Interconnectなど)」といったオプションが提供される。VPN接続はインターネットを介して暗号化されたトンネルを確立し、専用線接続は物理的な専用回線を使ってより安定した高帯域幅の接続を実現する。これにより、VPCはオンプレミス環境と連携し、ハイブリッドクラウド環境を構築するための重要なコンポーネントとなる。
VPCを利用する主なメリットは、その「分離性」と「制御性」にある。他のクラウドユーザーのネットワーク環境から完全に論理的に隔離されているため、自社のデータやアプリケーションの安全性を確保できる。また、ネットワーク構成やセキュリティルールをユーザー自身が細かく制御できるため、企業のセキュリティポリシーやコンプライアンス要件に合わせた環境を柔軟に構築できる。これにより、機密性の高い情報を取り扱うシステムや、金融、医療といった規制の厳しい業界においても、パブリッククラウドの利用を検討することが可能となる。
VPCは、パブリッククラウドの持つ「スケーラビリティ」と「柔軟性」を享受しつつ、従来のプライベートデータセンターに近い「セキュリティ」と「管理性」を両立させるための不可欠な技術である。複雑なネットワーク要件を持つエンタープライズシステムや、開発環境、テスト環境、本番環境を分離して運用したい場合、あるいはオンプレミス環境とのセキュアな連携が必要な場合に、その真価を発揮する。しかし、その分、ネットワーク設計には専門的な知識が必要となり、IPアドレス計画やルーティング、セキュリティ設定の管理が複雑になる場合があるため、適切な設計と運用が求められる。