【ITニュース解説】AI Can Parallelize the Work. It Cannot Parallelize My Attention
2026年10月23日に「Dev.to」が公開したITニュース「AI Can Parallelize the Work. It Cannot Parallelize My Attention」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
AIが作業を高速化しても、並列作業で集中が分散すると、品質低下や手戻りが増える。重要なのは、一つの目標に深く集中し、自身を意識し、変更を可逆的に行う「ディープワーク」だ。これにより、質の高い成果を生み、自身のエネルギーも維持できる。
ITニュース解説
AI(人工知能)が進化し、プログラミングの世界に大きな変化をもたらしている。AIがコードを生成し、テストを実行する「エージェント」と呼ばれる仕組みを使うと、私たちは複数の開発作業を同時に進められるようになった。しかし、この「並列化」は、人間の働き方や成果にどのような影響を与えるのだろうか。この記事は、この問いに対する経験と洞察を提示している。
まず、AIエージェントが存在しなかった頃の筆者の経験から解説しよう。ある時、CIパイプラインという、コードの変更があった際に自動でビルド(プログラムを動かせる形にする作業)やテストを行う仕組みに、特定の環境でのみ発生するバグが見つかった。このバグは、修正版をビルドして動かすまでに約5分かかり、失敗すればまた最初からやり直しという、非常に時間のかかるものだった。筆者は一晩中、解決策を見つけようと試行錯誤し、疲労困憊しながらも「あと一回だけ」と繰り返した。この長時間にわたる集中は、最終的に心身の疲弊と視野の狭さを招き、問題の本質を見失わせた。翌朝、上司から進捗を尋ねられても冷静さを保てず、解決策も思いつかない状態だった。
しかし、この経験は、後に「深い仕事」を行う上で重要な教訓となった。その後、同様の再現困難なバグに直面した際、筆者はまず上司に状況を説明し、解決に時間がかかる可能性があることを伝えた。そして、デバッグ方法を工夫した。毎回5分待ってビルドをやり直すのではなく、Dockerコンテナ(プログラムと実行環境をまとめたもの)の失敗直前の段階で実行を一時停止し、その内部に直接入ってテストを行う「対話型デバッグ」という方法を採用した。これにより、修正の検証にかかる時間が数秒に短縮され、迅速に問題を発見・解決できた。この二つの経験から筆者が学んだのは、単に集中するだけでは不十分だということだ。自分の身体的・精神的な状態、直面している状況、そして現在のアプローチが本当に有効かといったことを「認識」する能力が、質の高い仕事には不可欠なのである。
それから10年が経ち、AIエージェントが登場した現代において、筆者は新たな働き方に挑戦していた。複数のAIエージェントに同時に異なるプログラミングタスクを指示し、彼らが作業を進めている間、別のエージェントに切り替えて指示を出す。こうすることで、待ち時間をなくし、複数のタスクを並行して高速に進められると信じていた。一見、効率が良く、大量のチケット(開発タスク)をこなしているように感じられ、「人生で最高の仕事」をしているとさえ思った。
しかし、この働き方にも大きな落とし穴があった。複数のエージェントが並行して動く中で、筆者の注意は常に散漫になり、それぞれのタスクに対する理解は浅くなっていった。コードの変更点を確認する作業(diffsのレビュー)も疎かになり、エージェントが生成したコードを盲目的に信用するようになった。AIは作業を並列化できるが、人間が同時に複数の複雑な事柄を深く理解することには限界があるのだ。これは、以前の経験で得た「視野狭窄」とは異なる「断片化」という問題だった。
この「断片化」が招いた具体的な失敗例として、筆者はシステムのパフォーマンス改善、その計測に必要な監視機能の構築、そして新しいLLM(大規模言語モデル)への対応という、三つの大きな変更を同時に進めた。しかし、途中でLLMプロバイダーが以前の安価なモデルを提供しなくなり、異なる振る舞いをする新しいモデルへの切り替えが必要になった。その結果、監視対象が動き続け、計測データも比較できなくなるという混乱が生じた。筆者はこれらすべてを同時に修正しようと試みたが、各変更が複雑に絡み合ったため、何が原因で問題が起きているのか分からず、部分的に元に戻すことも困難になった。結局、顧客は新機能に不満を抱き、一ヶ月分の作業はすべて巻き戻されることになった。AIがコード生成を極めて容易にした今、一つ一つの変更の「因果関係」を明確に保ち、問題が起きた際に簡単に元に戻せる「可逆性」の重要性が増しているのだ。
これらの経験から、AIエージェントと共に「深い仕事」をするための四つの原則が導き出された。
第一に「一貫性」だ。一度に一つの明確な目標に集中すること。その目的、範囲、そして成功の基準をはっきりと理解し、エージェントの作業がその目標にどう貢献するかを把握する。複数のウィンドウを開いて何が起きているか再構築しなければならない状態では、一貫性は失われている。
第二に「認識」である。単に目の前の仕事だけでなく、自分がどのような精神状態や感情で仕事をしているかにも気づくこと。好奇心、不安、興奮、疲労といった自分の状態を認識することで、集中力が視野狭窄に陥ったり、興奮が作業の断片化を招いたりするのを防ぐ。
第三に「可逆性」だ。行った変更は、独立してテスト可能で、問題があれば簡単に元に戻せるようにする。プロンプト、モデル、監視ツール、最適化といった要素が同時に変更されると、何が何の原因になったのかが分からなくなる。一つずつ変更を進めることは、一見遅く見えるかもしれないが、何が機能し、何が機能しないかを学習するために不可欠なのだ。
第四に「抑制」である。AIエージェントを使えば、新しい機能や抽象的な概念をほとんど手間なく追加できてしまう。しかし、「少ない方が良い」という考え方が重要だ。システムエンジニアの仕事は、数多くの中から本当に価値があり、構築するに値する可能性を見極めることにある。
筆者は現在、これらの原則に基づいて、一つの簡単な実験を始めている。AIエージェントが作業を開始したら、別の作業ストリームは開かないようにする。その代わりに、現在のタスクに留まり、要件を再確認したり、関連するコードをじっくりと調べたり、あるいは自分の姿勢や呼吸に意識を向けたりする。エージェントが行っていることをまだ理解しているか、それが元の目標にまだ沿っているかを自問するのである。
この「待つ時間」は、決して作業の遅延ではない。それは仕事の一部なのだ。この働き方を始めて数週間、最初は「遅い」と感じるという。しかし、実際のところチケットの消化速度は以前と変わらないか、むしろ速くなっている可能性さえあるという。最も重要なのは、自分が何をしたのか、なぜその決定をしたのかを以前よりもずっと深く理解できるようになったことだ。結果として、ユーザーからの修正依頼や不満が大幅に減り、技術的には優れていても実際の問題を解決していない、という事態も少なくなった。
この新しい働き方は、仕事の成果だけでなく、筆者自身の状態にも良い影響を与えている。仕事終わりに残るエネルギーが増え、周囲の人々とのコミュニケーションも活発になった。週末が明ける時、以前は感じていた仕事への抵抗感がなくなり、再び仕事に戻るのが楽しみだと感じるようになったという。
AIがコードの実行をほぼ瞬時にできるようになったとしても、私たちがその速度に合わせて動く必要はない。システムエンジニアの仕事は、もはや可能な限り多くのコードを生産することではない。それは、作業に十分近づき、「何を作るべきか」そして「私たちが作ったものが実際に機能するか」を知ることなのだ。AIによる「豊富さ」の時代において、私たちはその恩恵を、より多くの成果を出すためだけに使うのではなく、私たち自身の人生をより豊かなものにし、より多くの人々が同じようにできるよう助けるものを構築するために使うべきなのである。目の前の画面を超えて、自分が今、本当に何をしているのかを問い直すことが、これからのエンジニアリングの鍵となるだろう。