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【ITニュース解説】The Alchemist's Endgame: My Final Synthesis of p-adic Clojure and Legacy Code.

2025年09月12日に「Dev.to」が公開したITニュース「The Alchemist's Endgame: My Final Synthesis of p-adic Clojure and Legacy Code.」について初心者にもわかりやすく解説しています。

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ITニュース概要

膨大なレガシーCOBOLコードの解析は困難だったが、「p進距離」という数学的手法を変数名に適用。文法解析なしでコード内の隠れた構造を効率的に発見し、システム全体を理解することに成功した。これは従来の解析手法より優れた結果を示した。

ITニュース解説

昔ながらのITシステム、特にCOBOLで書かれたものは、非常に大規模で複雑なのが特徴である。何百万行ものコードがあり、変数名には統一性のない独自のルールが使われていることが多い。さらに、コードの設計書や解説がほとんど残っていないことも珍しくなく、まるで手つかずのジャングルを探索するような困難さを伴う。

これまで、このような巨大なシステムを理解しようとする場合、大きく分けて三つの方法が試されてきた。一つは、プログラムの文法を解析して構造を明らかにする「パーサー」を作る方法だ。しかし、COBOLは方言が多く、古いコードだと文法が少しずつ異なるため、パーサーはすぐに壊れてしまうか、作成に膨大な手間がかかった。二つ目は、人間がコードを読んで手作業で分析する方法だ。これは時間がかかる上に、誤りも多く、大規模なシステムには全く向かない。三つ目は、正規表現というパターンマッチング技術で変数名などを探し出す方法だ。これは高速だが、変数間の微妙な関係性を見落としやすく、深い構造を理解するには不十分だった。これらの従来のアプローチでは、レガシーコードの真の姿を捉えきることが難しかったのである。

そこで、この記事では、既存の構造を無理に当てはめるのではなく、数学の力を使ってコードの中に隠された本当の構造を「発見」するという、全く新しいアプローチを提案する。この新しいアプローチの核となるのは、「p-adic距離」という数学的な概念である。これは、もともと数字の性質を測るために使われるものだが、ここではそれをCOBOLの変数名に応用する。簡単に言うと、p-adic距離では、二つの「もの」の共通する「接頭辞(先頭部分)」が長ければ長いほど、その二つの「もの」は「近い」と見なされる。例えば、「WS-CUST-ID」と「WS-CUST-NAME」という変数名があったとする。これらは「WS-CUST」という共通の接頭辞を持っているため、「WS-ORDER-ID」のような「WS」だけが共通する変数名よりもずっと近い関係にあると考えるのである。

この考え方を使うことで、従来のパーサーが必須としていた「抽象構文木(AST)」というプログラムの構造を階層的に表現する方法を迂回できる。ASTはプログラムの文法を完全に知っていることを前提とするが、p-adic距離は文法を全く知らなくても、変数名のパターンから自然な関係性を浮き彫りにできる。つまり、構造を外から押し付けるのではなく、データ自体の中から階層が自然に浮かび上がってくるのだ。

このp-adic距離を使った分析は、Clojureというプログラミング言語で実装された。その手順は大きく四つのステップに分けられる。最初のステップは、COBOLの変数名を扱いやすい形に「トークン化」することだ。例えば、「WS-CUST-ID」という一つの変数名を「WS」「CUST」「ID」という三つの単語(トークン)のリストに分割する。これは、変数名によく使われるハイフン(-)、ピリオド(.)、アンダースコア(_)などを区切り文字として利用して行う。次に、これらのトークン化された変数名同士の「p-adic距離」を計算する。まず、二つの変数名のトークンリストを比較し、先頭からいくつ同じトークンが続いているか、つまり共通の接頭辞の長さを数える。その長さに基づいて、1 / p^(共通接頭辞の長さ + 1)という式で距離を算出する。共通の接頭辞が長ければ長いほど、この距離は小さくなり、両者が「近い」ことを示す。三番目のステップは、この距離情報を使って変数名を「階層的にクラスタリング」、つまりグループ分けすることだ。ここではClojureのgroup-byという機能を利用する。これは、共通の接頭辞の長さごとに変数名をグループ化していくことで、あたかも距離を意識した特殊なデータのまとまりを作り出す。例えば、「WS-CUST-ID」を基準とすると、「WS-CUST-NAME」や「WS-CUST-ADDR」などは共通接頭辞の長さが「2」なので、一番近いグループにまとめられる。最後に、この方法を実際のCOBOLの変数リストに適用してみた。例えば、「WS-CUST-ID」を基準に分析すると、共通接頭辞の長さが2のグループ(例: WS-CUST関連)、1のグループ(例: WS-ORDER関連)、0のグループ(例: PRINT-関連)のように、明確な階層構造が自動的に現れることが確認された。

このp-adic距離に基づくアプローチには、従来の解析方法にはない多くの利点がある。まず、COBOLの「文法を一切必要としない」点が大きい。従来のパーサーはCOBOLの厳密な文法定義が不可欠だったが、この方法では変数名のパターンだけを見て構造を推測するため、方言や仕様の古いコードでも問題なく機能する。次に、「計算効率」が非常に高いことだ。抽象構文木を構築するような複雑な処理は不要で、変数名の長さに比例する単純な数学的計算で距離を求められる。これにより、巨大なコードベースでも高速に分析を進めることができる。さらに、「隠れた構造を発見する」能力も特筆すべき点である。正規表現では捉えきれない変数間の微妙な関係性や、暗黙のルールに基づくグルーピングを、数学的な根拠をもって明らかにできる。そして、従来のデータ構造が厳密なキーの一致のみを求めるのに対し、このアプローチは距離に基づいて「近似的な検索」を可能にする。これは、変数名のわずかな不一致が頻繁に起こるレガシーコードの分析において、非常に価値のある機能である。

単一の変数に対するクラスタリングだけでなく、さらに一歩進んでシステム全体の階層構造を明らかにするアプローチも開発された。これは、複数の「基底パターン」(例えば、「WS-CUST」や「DB-」など)を定義し、それらのパターンに合致する変数を並行して分析し、最終的に結果を統合するという方法だ。これにより、個々の変数間の局所的な類似性から、システム全体のより大きな構造理解へと繋げることができる。大規模なエンタープライズシステムでは、何千もの基底パターンが存在する可能性があるため、その自動的な発見も重要になる。この記事では、全ての変数名から頻繁に登場する接頭辞(1〜2単語)を抽出し、一定の出現回数を超えるものを「潜在的な基底パターン」として自動的に特定する手法も紹介している。これらの自動的に見つけ出されたパターンに基づいて解析を行うことで、手作業なしに大規模なCOBOLシステム全体の構造を効率的に分析できるようになる。

この画期的な手法を、実際に500万行以上のCOBOLコードと約5万個の変数を抱える、ある銀行の基幹システムに適用してみたところ、驚くべき結果が得られた。例えば、「WS-」(ワークスペースデータ)に関連する12,000以上の変数や、「DB-」(データベースマッピング)に関連する9,000以上の変数、「ERR-」(エラー処理)に関連する約500の変数が、それぞれ主要なサブシステムとして自動的に特定された。さらに、これらのサブシステム内での詳細な階層構造、例えば「WS-CUST-」(顧客レコード)や「WS-ACCT-」(口座詳細)なども明確に浮かび上がってきた。この分析により、これまで文書化されていなかったサブシステムが見つかったり、異なる命名規則を持つ変数群(例: 「WS-CUST-」と「DB-CUSTOMER-TBL-*」)間の関連性が距離測定を通じて可視化されたりと、数々の貴重な洞察が得られたのである。

この研究から得られた最も重要な教訓は、数学、特にp-adic距離のようなシンプルな概念が、複雑なレガシーコードの中に隠された構造を、文法解析なしに強力に明らかにするという点である。また、Clojureのような関数型プログラミング言語が、このような複雑な問題をエレガントかつスケーラブルに解決できることも示された。このアプローチは、データベースのスキーマ分析、コードの類似性検出、APIの命名規則チェック、さらには異なるシステム間の連携マッピングなど、命名規則に暗黙のパターンが存在する様々なIT分野に応用できる可能性を秘めている。レガシーコードは単なる「古い資産」ではなく「隠された宝の山」であり、適切なツールと数学的洞察があれば、その価値を再び引き出すことができるのだ。

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