Webエンジニア向けプログラミング解説動画をYouTubeで配信中!
▶ チャンネル登録はこちら

【ITニュース解説】Micro-LEDs boost random number generation

2025年09月17日に「Hacker News」が公開したITニュース「Micro-LEDs boost random number generation」について初心者にもわかりやすく解説しています。

作成日: 更新日:

ITニュース概要

Micro-LEDの最新技術を用いることで、コンピューターのセキュリティや暗号化に不可欠な乱数の生成が、これまで以上に高速かつ高精度に行えるようになった。これは、デジタルデータの安全性を高める重要な進歩だ。

ITニュース解説

「ランダムな数」は、コンピュータやデジタル技術が私たちの生活に深く浸透した現代社会において、予測不能な要素として極めて重要である。例えば、インターネットを通じて安全に情報をやり取りするための暗号技術や、銀行のオンライン取引、個人のプライバシーを守るためのデータ暗号化には、予測できない乱数が不可欠である。もしこれらの乱数が予測可能であれば、重要なデータが盗まれたり、システムが不正に操作されたりする危険性が大幅に高まってしまう。また、人工知能の学習プロセス、科学的なシミュレーション、さらにはゲームの公平性を保つためにも、高品質なランダム数が必要となる。

ランダムな数を生成する方法には、大きく分けて「擬似乱数生成器(PRNG)」と「真性乱数生成器(TRNG)」の二種類が存在する。擬似乱数生成器は、特定の計算式やアルゴリズムを用いて、あたかもランダムであるかのように見える数列を高速に生成する。しかし、これは「擬似」であり、一度開始点となる「種(シード)」が分かってしまえば、その後に続く数列は完全に予測できてしまうという本質的な限界がある。そのため、極めて高いセキュリティが求められるような、たとえば暗号鍵の生成といった用途には不向きである。

一方、真性乱数生成器は、自然界に存在する物理的に予測不可能な現象を乱数の源として利用する。例えば、半導体内部のわずかな熱による電気ノイズ、大気中の電磁波ノイズ、あるいは量子力学的な現象などが使われる。これら物理現象の不規則性を利用することで、真に予測不能な乱数を生成できるため、セキュリティ分野では不可欠な技術とされている。しかし、従来の真性乱数生成器にはいくつかの課題があった。多くの場合、装置が大型になりがちで、乱数の生成速度も比較的遅く、多くの電力を消費することもある。また、周囲の温度や電圧といった環境条件に性能が左右されることも少なくなかった。

こうした従来の真性乱数生成器が抱える課題に対し、キングアブドゥッラー科学技術大学(KAUST)の研究チームは、マイクロLED(Micro-LED)という非常に小さな発光ダイオードを利用した、革新的な真性乱数生成器を開発した。この新しい技術は、物理学の根源的な法則に基づいた、真に予測不可能な現象である「量子ショットノイズ」を乱数生成の核として活用する点が最大の特徴である。

マイクロLEDが光を放つ基本的なメカニズムは、電気が流れることで、LED内部の特定の層にある電子が、同じく内部に存在する「正孔(ホール)」と呼ばれる電子の空きスペースと結合する際に、エネルギーを光の粒、すなわち「光子」として放出するというものだ。この電子が正孔と結合する過程、そして光子が放出されるタイミングは、量子力学の原理によって本質的に確率的であり、個々の出来事を予測することは不可能である。この電子の移動と光子の放出がランダムであることから生じる、光の明るさのわずかな、しかし測定可能な「ゆらぎ」が「量子ショットノイズ」である。研究チームは、このマイクロLEDから放出される光のランダムなゆらぎを、非常に感度が高く、かつ高速で動作する光検出器によって精密に測定した。測定された光のゆらぎはアナログ信号として得られるが、これをデジタル信号に変換し、さらに信号処理を施すことで、真に予測不能なビット列(0と1の並び)を効率的に抽出することに成功した。

このマイクロLEDを用いた真性乱数生成器が持つ最大の利点は、その圧倒的な高速性である。従来の真性乱数生成器が一般的に1秒あたりメガビット(Mbps)のオーダーで乱数を生成していたのに対し、この新技術は1秒あたりギガビット(Gbps)という、まさに桁違いの速度で乱数を生成できる能力を持つ。研究では、たった一つのマイクロLEDから2.5Gbpsもの速度で乱数が生成できることが実証された。これは、大量の高品質な乱数を瞬時に必要とする現代のデジタルアプリケーションにとって、極めて重要な進歩である。

また、マイクロLEDは非常に小型であるという特徴も持つ。このため、生成器全体をコンピュータのチップ上に直接組み込むことが可能になる(オンチップ化)。これにより、これまで大型化しがちだった真性乱数生成器を、スマートフォンやウェアラブルデバイス、IoT(モノのインターネット)機器といった、スペースや電力に制約のある小型デバイスにも容易に搭載できるようになる。生成される乱数の品質も極めて高い。量子力学的な現象に基づいているため、その予測不可能性は保証されており、米国標準技術研究所(NIST)が定める厳格な統計テストを含む、さまざまな品質評価基準をクリアしている。これは、最高レベルのセキュリティが要求される国家機密や金融取引、高度な暗号技術といった用途にも十分耐えうることを意味する。さらに、マイクロLEDはスケーラビリティも有している。複数のマイクロLEDを並べてアレイ状に配置することで、乱数生成の総速度をさらに向上させることも理論的に可能である。

これらの優れた特性は、このマイクロLEDベースの乱数生成技術が、将来的に非常に幅広い分野で活用される可能性を示している。例えば、電力消費や処理能力が限られるIoTデバイスにおいて、これまで導入が難しかった強固なセキュリティ機能を提供できるようになる。エッジコンピューティング環境においても、デバイス単体で強固な暗号化や認証を可能にし、データプライバシーとセキュリティを大幅に向上させるだろう。また、膨大な量と高い品質の乱数を必要とする科学シミュレーションや、次世代の暗号アルゴリズムの開発基盤としても、その価値は計り知れない。

このマイクロLEDを用いた真性乱数生成技術は、現代社会のセキュリティを根幹から支え、未来のデジタル環境をより安全で信頼性の高いものにするための、極めて重要なイノベーションである。高速性、小型化、高品質な乱数、そして低消費電力といったその特性は、現在の技術が抱える課題を解決し、来るべきデジタル社会の発展に大きく貢献する可能性を秘めていると言える。

関連コンテンツ

関連IT用語