ksh(ケイエスエイチ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
ksh(ケイエスエイチ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
ケーエスエイチ (ケーエスエイチ)
英語表記
ksh (ケーエスエイチ)
用語解説
kshは、KornShell(コーンシェル)の略称であり、UNIXおよびLinuxなどのUNIX系オペレーティングシステムで利用されるシェルの一種である。シェルとは、ユーザーがキーボードから入力したコマンドを解釈し、OSの中核部分であるカーネルに伝えて実行させるためのプログラムであり、コマンドラインインターフェースを提供する役割を担う。kshは、1980年代初頭にAT&Tベル研究所のDavid Kornによって開発された。その開発目的は、当時主流であった二つのシェル、Bourne Shell(sh)とC Shell(csh)の長所を統合することにあった。Bourne Shellは、信頼性が高く、シェルスクリプトと呼ばれる一連のコマンドを記述したプログラムの実行に適していたが、対話的な操作性、つまりユーザーが直接コマンドを入力して作業する際の利便性に欠けていた。一方、C Shellはコマンド履歴の呼び出しや別名の登録(エイリアス)など、対話的な機能が豊富であったが、スクリプト言語としての構文に一貫性がなく、複雑な処理を記述するには不向きな面があった。kshは、Bourne Shellの堅牢なスクリプト機能を基礎とし、その完全な上位互換として設計された。これにより、既存のsh用スクリプトを一切変更することなくksh上で実行できる。その上で、C Shellが持つ便利な対話的機能を数多く取り入れ、プログラミング機能と対話的機能の両方を高いレベルで実現したシェルとして広く普及した。特に、多くの商用UNIXシステムでは標準シェルとして採用され、システムの管理や開発において重要な役割を果たしてきた。また、その機能や構文は後のシェルの標準仕様であるPOSIXにも大きな影響を与え、現在Linux環境で広く使われているbash(Bourne-Again Shell)の設計にも取り入れられている。
kshの具体的な特徴と機能について詳細に解説する。まず、対話的な操作性を向上させる機能として、コマンド履歴とコマンドライン編集が挙げられる。コマンド履歴機能により、過去に実行したコマンドを記憶し、キーボードの矢印キーなどで簡単に呼び出して再実行したり、修正して実行したりすることができる。これにより、同じようなコマンドを何度も打ち込む手間が省け、作業効率が大幅に向上する。コマンドライン編集機能は、viやemacsといったUNIXで標準的なテキストエディタのキー操作を用いて、入力中のコマンドラインを柔軟に編集できる機能である。ユーザーは使い慣れたエディタの操作感で、カーソルの移動、文字の挿入や削除、単語単位での編集などを直感的に行える。次に、プログラミング言語としての機能強化がkshの大きな特徴である。Bourne Shellでは、数値計算を行う際に外部コマンドであるexprを呼び出す必要があり、記述が煩雑になりがちだった。kshでは、((...))という構文を導入し、シェル内部で直接、高速な整数演算を行えるようになった。これにより、C言語に近い自然な形で計算式をスクリプト内に記述できる。また、配列のサポートも重要な機能拡張である。複数の値を一つの変数名で管理できる配列は、大量のデータを扱うスクリプトを作成する上で不可欠であり、kshでは添字を指定して個々の要素にアクセスできる。さらに後継バージョンであるksh93では、文字列をキーとして値にアクセスできる連想配列や、浮動小数点演算もサポートされ、より高度で複雑なデータ処理が可能になった。このほかにも、対話的なスクリプトを作成する際に便利なselect文がある。これは、ユーザーにメニュー形式で選択肢を提示し、番号で選択させるという一連の処理を簡単に記述できる制御構文である。ジョブコントロール機能もkshの重要な特徴であり、実行に時間のかかるコマンドをバックグラウンドで動かしながら、別の作業をフォアグラウンドで続けるといった操作を可能にする。これらの機能は、システムの管理や自動化処理を行うシェルスクリプトを作成する上で、kshを非常に強力なツールとしている。現在、Linux環境ではbashが標準シェルとして広く普及しているが、kshの知識は依然として重要である。AIXやHP-UX、Solarisといった商用UNIX環境では、kshが標準シェルとして採用され続けているため、これらのシステムを扱うエンジニアにとっては必須の知識となる。また、bashの多くの機能はkshから受け継がれたものであり、kshを理解することはbashへの理解を深めることにも繋がる。さらに、軽量な派生版であるmkshは、Androidのシステムシェルとして採用されており、組み込みシステムの世界でもその存在感を示している。このように、kshはUNIXの歴史において重要な役割を果たし、現代のシステムにおいても様々な形で利用され続けている、システムエンジニアが学ぶべき基本的なシェルの一つである。