【ITニュース解説】ContextLy.AI: No RAG, No Lag - Gemini x MCP
2025年09月09日に「Dev.to」が公開したITニュース「ContextLy.AI: No RAG, No Lag - Gemini x MCP」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
新しいAIアシスタント「ContextLy.AI」は、PDFや音声等の複数ファイルをアップロードするだけで即座に対話可能。GoogleのAI「Gemini」を活用し、RAGで必要な複雑なデータベース構築を不要にすることで高速応答を実現した。
ITニュース解説
近年、ChatGPTをはじめとする対話型AIが急速に普及しているが、その多くはインターネット上の膨大な情報を事前に学習した知識に基づいて回答を生成する。そのため、ユーザーが個人的に持っているPDF資料や音声ファイル、特定のウェブページの内容について深く質問することは、標準機能だけでは難しい。この課題を解決する技術として「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」、日本語では「検索拡張生成」と呼ばれる手法が注目されている。しかし、RAGを実装するには、文書を「ベクトル」と呼ばれる数値の集まりに変換し、それを高速に検索できる「ベクトルデータベース」に保存するといった、専門的な知識と複雑な準備が必要となる。今回紹介する「ContextLy.AI」は、このRAGの複雑さを取り払い、誰でも手軽に自分のデジタルコンテンツとAIで対話できる新しいアプローチを提示するアプリケーションである。
ContextLy.AIの最大の特徴は、「No RAG, No Lag(RAG不要、遅延なし)」というコンセプトにある。これは、ユーザーがPDF、音声ファイル、ウェブページのURLなどをアップロードするだけで、複雑な前処理やデータベース構築を一切行うことなく、即座にAIとの対話を開始できることを意味する。従来の手法では、コンテンツをAIが理解できる形式に変換し、データベースに登録するまでに時間と手間がかかっていたが、ContextLy.AIはその障壁を取り除き、直感的でスムーズな体験を提供する。
この革新的な機能を実現しているのが、Googleの最新AIモデル「Gemini Flash」とその関連技術である。Gemini Flashは、テキストだけでなく、画像、音声、動画といった複数の異なる形式の情報を同時に理解できる「マルチモーダル」能力に長けている。ContextLy.AIは、この能力を最大限に活用し、アップロードされたPDFのテキスト内容、音声ファイルの話されている内容、ウェブページの情報などを、それぞれネイティブに処理する。これにより、例えば研究論文のPDF、関連する講義の音声、参考記事のURLをまとめてアップロードし、「この論文の結論は、音声ファイルで語られていた内容とどのように関連していますか」といった、複数の資料を横断する高度な質問が可能になる。このような異なる種類のメディア間の関連性を分析する機能は「クロスモーダル分析」と呼ばれ、人間が手作業で行っていた情報整理や分析をAIが代行してくれる可能性を示している。
さらに、ContextLy.AIは「Tool Calling(ツール呼び出し)」という機能を活用している。これは、AIが対話の文脈に応じて、特定の機能や外部のプログラムを自動的に呼び出す技術である。例えば、「私の履歴書PDFの中で、アップロードした面接対策の音声ファイルで指摘されていた点が抜けていないか確認して」と質問すると、AIはツール呼び出し機能を使って音声ファイルから関連する箇所を特定し、その内容と履歴書の記述を比較して回答を生成する。このように、AIが単に知識を答えるだけでなく、能動的に情報を探し、比較・分析といった具体的なタスクを実行できる点が大きな特徴である。この複雑なツール連携と文脈維持を支えているのが、「Model Context Protocol (MCP)」というプロトコルであり、AIが複数の操作を一貫性を保ちながら実行することを可能にしている。
また、Webアプリケーションとして公開されている一方で、プライバシー保護にも細心の注意が払われている。利用時に必要となるGoogleのAPIキーは、ユーザーのブラウザのメモリ上にのみ一時的に保存され、開発者のサーバーに送信・保存されることはない。アップロードされたファイルや対話履歴もセッションベースで管理されており、ブラウザのページを再読み込みしたり閉じたりすると、すべてのデータは消去される。これにより、機密情報が外部に漏洩するリスクを最小限に抑えている。この仕組みは、Google Cloud Runというクラウドサービス上で、各ユーザーの利用環境を完全に分離する「ステートレスコンテナ」という設計によって実現されており、安全性が確保されている。
ContextLy.AIは、現時点ではGoogleのAI技術コンテストへの出品作品という位置づけだが、AIと人間との関わり方における一つの未来像を示している。複雑な準備を必要とせず、誰もが自分の持つ情報資産と簡単に対話できる世界は、学習や研究、業務の効率を飛躍的に向上させるだろう。今後は、データを永続的に自分のPCに保存して利用できるローカル版の開発も計画されており、この技術がより身近で実用的なツールへと進化していくことが期待される。