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【ITニュース解説】Taking advantage of CQRS in legacy applications

2025年09月11日に「Dev.to」が公開したITニュース「Taking advantage of CQRS in legacy applications」について初心者にもわかりやすく解説しています。

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ITニュース概要

CQRSは、データを更新する処理と読み出す処理を分離する考え方。既存システムでも「Pattern CQRS」で導入し、複雑なプログラムをすっきりさせ、データ読み込みを効率化できる。保守性も高まるが、万能ではないため、適用前に検討が必要だ。

ITニュース解説

システム開発では、効率的で保守しやすいアプリケーションを作るために様々な設計手法が用いられる。その一つに「CQRS(Command Query Responsibility Segregation)」という考え方がある。これは「コマンド(処理命令)とクエリ(問い合わせ)の責任を分離する」という意味で、簡単に言えば、データの「変更」とデータの「参照」を、それぞれ異なる方法で扱う設計原則を指す。

なぜこのような分離が必要になるのか。多くのアプリケーションでは、データの変更と参照の両方に同じプログラムの部品、例えば「エンティティ」と呼ばれるシステム内の実体を表現するクラスを使うことが一般的だ。しかし、システムが複雑になるにつれて、このアプローチは問題を引き起こす可能性がある。

例えば、ユーザーを管理する機能を想像してみよう。新しいユーザーを登録したり、既存のユーザー情報を更新したりする操作は、システムの状態を変更する「コマンド」に当たる。一方、ユーザーの一覧を表示したり、特定のユーザーのプロフィールを表示したりする操作は、システムの状態を変更せずデータを読み取るだけの「クエリ」だ。

従来のシステムでは、これらのコマンドとクエリの両方で「User」というエンティティを使うのが一般的だった。このUserエンティティには、ユーザーの名前、メールアドレス、パスワード、登録日、ステータス、さらには閲覧権限や購読プランなど、非常に多くの情報が含まれることになる。また、ユーザーをアクティベートするロジックや、パスワードを変更するロジックなど、様々な処理もこのエンティティ内に持つことが多い。

このような設計にはいくつかの問題点がある。第一に、エンティティが多数のプロパティやメソッドを持つようになり、「肥大化」してしまうことだ。これにより、本来データを変更するためのビジネスロジックと、単にデータを表示するための情報が混ざり合い、エンティティの役割が曖昧になる。例えば、ユーザー一覧を表示する際には、メールアドレスと購読プランの情報だけが必要なのに、パスワードや登録日など、不要な情報までUserエンティティを通じて扱ってしまうことがある。

第二に、データ表示のためにエンティティ内部の情報を外部に公開する(「ゲッター」と呼ばれるメソッドや、直接プロパティにアクセス可能にする)必要が出てくる。これは、オブジェクト指向プログラミングの重要な原則である「カプセル化」を破る可能性がある。カプセル化とは、エンティティの内部構造を隠蔽し、外部からは限られたインターフェース(窓口)を通じてのみアクセスさせることで、変更の影響範囲を小さくし、保守性を高める考え方だ。エンティティの内部が丸見えになってしまうと、将来的にそのエンティティの構造を変更するのが難しくなる。

第三に、パフォーマンスの問題も生じやすい。ユーザー一覧を表示するようなクエリ操作は、一般的に高速な応答が求められる。しかし、多くのプロパティを持つエンティティをデータベースから取得しようとすると、不要なデータまで読み込んだり、複数の関連するテーブルからデータを結合(ジョイン)したりする必要があり、これが処理速度を低下させる原因となる。特に、たくさんのユーザーを一度に表示する場合、このオーバーヘッドは無視できないものになる。

そこでCQRSが役立つ。CQRSには大きく分けて二つの考え方がある。一つは「Architectural CQRS」と呼ばれるもので、これはアプリケーション全体のアーキテクチャ(設計思想)としてCQRSを適用する大規模なアプローチだ。この場合、データの変更があったときに「イベント」という形でその変更を通知し、そのイベントを元に参照専用のデータベースやデータモデルを更新する。これにより、変更用と参照用で完全に異なるデータストアを持つことも可能になり、参照処理を最大限に高速化できる。しかし、このアプローチはイベントバスや専用のデータストアなど、多くの新しいツールや技術の導入が必要になり、既存のシステム(「レガシーシステム」と呼ばれる古いシステム)に適用するには非常に大きなコストと手間がかかる。

もう一つが、この記事で注目する「Pattern CQRS」だ。これは、Architectural CQRSほど大規模ではなく、もっと低レベルで、個々の機能やユースケース(システムの使用目的)単位でCQRSの考え方を取り入れるアプローチだ。レガシーシステムのように、アプリケーション全体の構造を大きく変更するのが難しい場合に、段階的かつ比較的容易に導入できるのが大きな特徴となる。

Pattern CQRSの基本的な考え方はこうだ。データの状態を変更する操作(コマンド)では、これまで通りエンティティを使ってビジネスロジックを実行する。しかし、データを読み取るだけの操作(クエリ)では、エンティティを直接使うのではなく、そのクエリに特化した「読み取りモデル」という新しいデータ構造と、それを取得するための専用の処理を用意する。この読み取りモデルは、ビジネスロジックを持たず、ただ表示に必要なデータだけを格納するシンプルな構造体だ。

先ほどのユーザー一覧の例で具体的に見てみよう。従来のシステムでは、ユーザーをアクティベートする処理も、ユーザー一覧を表示する処理も、Userエンティティを使っていた。Userエンティティにはメールアドレスやステータスなど、多岐にわたる情報が含まれ、さらに購読プランの情報も表示するためにSubscriptionエンティティまで結合して読み込む必要があった。

Pattern CQRSを導入すると、まず「ActivateUser」のようなコマンド処理はほとんど変わらない。Userエンティティは依然としてアクティベートのビジネスロジックを持ち、ステータスを変更する役割を担う。

しかし、「ListUsers」のようなクエリ処理は大きく変わる。UserエンティティやSubscriptionエンティティを直接読み込む代わりに、「ListUsersQuery」のような専用の「クエリオブジェクト」を作成する。このクエリオブジェクトは、ユーザー一覧表示に本当に必要なデータ(メールアドレス、購読タイプなど)だけをデータベースから効率的に取得し、それを「ListUserCollection」のような読み取りモデルとして返す役割を担う。

こうすることで、Userエンティティは表示のための不要なプロパティやゲッターを持つ必要がなくなり、純粋にビジネスロジック(例えばユーザーの状態を変更するロジック)に集中できる。その結果、Userエンティティはより小さく、シンプルになり、カプセル化が強化され、将来的な変更や拡張が容易になる。不要な情報をデータベースから読み込む手間が省けるため、クエリのパフォーマンスも改善される可能性がある。購読プランの情報も、必要な「タイプ」だけを効率的に取得できるようになるため、無駄がなくなる。

Pattern CQRSの導入手順は比較的シンプルだ。まず、既存の読み取り操作(クエリ)が必要とするデータだけを持つ、新しい読み取りモデル(例:ユーザー一覧の各ユーザー情報)を定義する。次に、この新しい読み取りモデルをデータベースから取得するための、専用のデータアクセス手段(例:ListUsersQuery)を作成する。これはSQLクエリなどを最適化し、必要なデータだけを効率よく取得するように設計する。最後に、既存の読み取り操作で使っていたエンティティのリポジトリ(データベースからエンティティを取得する部品)を、新しく作成したデータアクセス手段に置き換える。これで、読み取り操作は新しい読み取りモデルを使い、より最適化された方法でデータを取得できるようになる。

このアプローチの大きなメリットは、既存のシステムに「段階的」に導入できることだ。全ての読み取り操作を一気に変更する必要はなく、影響の大きいものやパフォーマンスが問題になっているものから一つずつ適用していくことができる。これにより、変更によるリスクを抑えつつ、徐々にシステムの健全性を高めていける。エンティティも少しずつシンプルになり、ドメインモデル(ビジネス領域の概念を表現するモデル)がデータベースの構造に引きずられにくくなる。

もちろん、Pattern CQRSにもデメリットはある。もし読み取り表示に必要なデータが、エンティティ内の複雑なビジネスロジックを通じて計算される必要がある場合(例えば、注文エンティティが持つ複数の明細から合計金額を計算するような場合)、結局はエンティティを読み込んでその計算ロジックを実行しなければならない。このようなケースで無理に読み取りモデルだけで対応しようとすると、ビジネスロジックを重複して書いたり、不正確なデータが表示されたりするリスクがあるため、注意が必要だ。また、新しい読み取りモデルとデータアクセス層を追加することで、システムの部品が増え、全体的な複雑さが増す可能性もある。メンテナンスの手間が増えることも考慮する必要があるだろう。

結論として、Pattern CQRSは、特にレガシーシステムにおいて、肥大化したエンティティやパフォーマンスの課題を解決する有効な手段となり得る。アプリケーション全体のアーキテクチャを大きく変更することなく、特定の課題を抱える読み取り操作に絞って改善を施すことができるため、リスクを抑えながらメリットを享受できる可能性を秘めている。しかし、万能薬ではないため、導入の価値があるかを個々のケースで慎重に評価することが重要だ。もし、あなたのプロジェクトで、多くのゲッターを持つ読みにくいエンティティや、データベース設計に密接に結びつきすぎて進化が難しいエンティティに悩まされているなら、Pattern CQRSを試してみる価値はあるだろう。一つ、最も問題のあるユースケースを選んで改善してみれば、その効果を実感できるかもしれない。

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