IPX/SPX(アイピーエックスエスイーエックス)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

IPX/SPX(アイピーエックスエスイーエックス)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

アイピーエックス/エスピーエックス (アイピーエックスエスピーエックス)

英語表記

IPX/SPX (アイピーエックスエスピーエックス)

用語解説

IPX/SPXは、かつてネットワークの世界で広く利用されていた通信プロトコル群、すなわちプロトコルスイートである。これは米国のNovell社が自社のネットワークOSである「NetWare」のために開発したもので、1980年代から1990年代半ばにかけて、特に企業内のローカルエリアネットワーク(LAN)において、ファイル共有やプリンタ共有を実現するための中心的な技術として、デファクトスタンダードに近い地位を確立していた。現代のネットワークで標準的に使用されているTCP/IPプロトコルスイートと比較すると、IPXはIP(Internet Protocol)に、SPXはTCP(Transmission Control Protocol)にそれぞれ相当する役割を担うプロトコルと理解することができる。しかし、インターネットの爆発的な普及により、その標準プロトコルであるTCP/IPがネットワーク全体の標準となったため、IPX/SPXは次第にその役割を終え、現在では特定の古いシステムや一部のレガシーなネットワークゲームなどを除き、商業環境で利用されることはほとんどない。

IPX/SPXの詳細について、まず中核となるIPXから解説する。IPXはInternetwork Packet Exchangeの略であり、OSI参照モデルにおけるネットワーク層のプロトコルである。その主な機能は、ネットワーク上の機器間でデータをパケットという小さな単位で送受信する際の、宛先の指定(アドレッシング)と、宛先までの最適経路の選択(ルーティング)である。IPXはコネクションレス型の通信方式を採用している。これは、通信相手との間で事前に接続を確立する手続きを経ずに、一方的にパケットを送信する単純な方式を指す。そのため、パケットが確実に相手に届いたか、あるいは送信した順序通りに届いたかといった通信の信頼性は保証されず、それらは上位層のプロトコルに委ねられる。IPXのアドレス体系は特徴的で、32ビットのネットワークアドレスと48ビットのノードアドレスから成る合計80ビットで構成される。このノードアドレスには、通常、ネットワークインターフェースカード(NIC)に製造段階で書き込まれている物理アドレス、すなわちMACアドレスがそのまま使用された。この仕組みにより、管理者がTCP/IPネットワークのように各機器へ手動でIPアドレスを割り当てる必要がなく、コンピュータをネットワークに接続するだけで自動的に一意なアドレスが定まるため、特に小規模なLANの構築や管理が非常に容易であるという大きな利点があった。

次に、SPXについて解説する。SPXはSequenced Packet Exchangeの略で、OSI参照モデルではトランスポート層に位置するプロトコルである。IPXが信頼性を保証しないコネクションレス型であるのに対し、SPXは信頼性の高いコネクション指向の通信を提供する。通信を開始する前に送信元と宛先の間で仮想的な通信路(コネクション)を確立し、その上でデータの送受信を行う。このコネクションを通じて、SPXは送信したパケットが正しい順序で宛先に届くことを保証する順序制御や、転送中にデータが破損・消失していないかを確認し、問題があれば再送を要求するエラー制御およびフロー制御の機能を提供する。これらの機能は、TCP/IPにおけるTCPの役割と非常によく似ており、アプリケーションが確実なデータ転送を必要とする場合に、IPXの上位プロトコルとして利用された。

IPX/SPXプロトコルスイートには、これら二つ以外にも重要なプロトコルが存在した。代表的なものに、NCP(NetWare Core Protocol)とSAP(Service Advertising Protocol)がある。NCPは、ファイルサーバーへのアクセス、プリンタ共有、ディレクトリサービスといった、ユーザーが直接利用するネットワークサービスを提供するためのプロトコルである。一方、SAPはネットワーク上のサーバーが、自身が提供しているサービスの種類や名前を定期的にネットワーク全体に告知(ブロードキャスト)するためのプロトコルである。クライアントはこのSAPの情報を受け取ることで、ネットワーク上にどのようなサービスが存在するかを自動的に検出し、利用することができた。

IPX/SPXが衰退した主な理由は、インターネットの台頭である。設定の容易さからLAN環境では絶大な支持を得ていたIPX/SPXであったが、その設計はもともとLAN内での利用を主眼としており、インターネットのような広大で不特定多数が接続するWAN環境には必ずしも適していなかった。特に、SAPなどが用いるブロードキャスト通信は、ネットワークの規模が大きくなるにつれて通信量を増大させ、ネットワーク全体のパフォーマンスを低下させる要因となった。1990年代半ば以降、企業LANもインターネットへ接続することが一般的になると、LAN用のIPX/SPXとインターネット用のTCP/IPという二つのプロトコルを共存させる必要が生じ、ネットワーク管理の複雑化を招いた。この状況を決定的に変えたのが、Microsoft社のWindows 95である。Windows 95がTCP/IPを標準プロトコルとして全面的にサポートしたことで、PCネットワークの標準は急速にTCP/IPへと移行した。最終的にはNovell社自身もNetWareでTCP/IPをネイティブサポートするようになり、IPX/SPXはその歴史的役割を終えたのである。