KVM over IP(ケイブイエムオーバーアイピー)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
KVM over IP(ケイブイエムオーバーアイピー)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
KVMオーバーIP (ケイブイエムオーバーアイピー)
英語表記
KVM over IP (ケイブイエム・オーバー・アイピー)
用語解説
KVM over IPは、ネットワーク経由で遠隔地にあるコンピュータを操作するための技術、またはそのための装置を指す。KVMとは、コンピュータを操作するために不可欠な3つの基本的な入出力デバイス、すなわちKeyboard(キーボード)、Video(ビデオ、ディスプレイの映像信号)、Mouse(マウス)の頭文字を取ったものである。そして「over IP」は、これらの信号をIP(Internet Protocol)ネットワーク、つまり一般的なLANやインターネットを通じて送受信することを意味する。したがって、KVM over IPは、物理的に離れた場所にあるコンピュータのキーボード、ディスプレイ、マウスの信号をネットワークで延長し、あたかもそのコンピュータの目の前で作業しているかのように直接操作することを可能にする。この技術の最も重要な特徴は、操作対象のコンピュータのオペレーティングシステム(OS)の状態に依存しない点にある。
その仕組みは、ハードウェア装置が介在することによって実現される。KVM over IP装置は、操作対象となるサーバーやコンピュータのビデオ出力ポート(VGA、DVI、HDMIなど)、キーボードポート(USBまたはPS/2)、マウスポート(USBまたはPS/2)に物理的にケーブルで接続される。この装置は、コンピュータから出力されるアナログまたはデジタルのビデオ信号をキャプチャし、デジタルデータに変換した上で圧縮し、IPパケットとしてネットワークに送信する。操作を行う管理者のコンピュータでは、Webブラウザや専用のクライアントソフトウェアを用いてこのデータを受信し、画面上に遠隔地のコンピュータのデスクトップをリアルタイムで表示する。逆に、管理者が手元のキーボードやマウスを操作すると、その入力情報がネットワークを通じてKVM over IP装置に送られ、装置がその信号をコンピュータが認識できる形式に変換して入力する。これにより、双方向の操作が実現される。
この技術は、リモートデスクトッププロトコル(RDP)やVNCといったソフトウェアベースのリモートアクセス技術とは根本的に異なる。ソフトウェア方式は、OS上で動作するアプリケーションとして機能するため、OSが正常に起動し、ネットワークが利用可能な状態でなければ使用できない。一方、KVM over IPはハードウェアレベルでコンピュータに接続されているため、OSが起動する前のBIOSやUEFIの設定画面の操作、OSのインストール作業、ブルースクリーンなどでOSが応答しなくなった状態の確認や強制再起動など、OSが介在しない低レベルな操作を行うことができる。これがKVM over IPが持つ最大の利点である。
さらに、多くのKVM over IP製品には、管理作業を効率化するための付加機能が搭載されている。その代表的なものが「仮想メディア機能」である。これは、管理者のコンピュータ上にあるCD/DVDドライブ、USBメモリ、あるいはISOイメージファイルなどを、ネットワーク越しに遠隔地のコンピュータに接続された物理的なドライブであるかのように認識させる機能である。この機能により、OSのインストールメディアやリカバリーツールを物理的にサーバーへ挿入しに行くことなく、遠隔からOSの新規インストールやシステムの復旧作業を完遂させることが可能となる。また、サーバーの電源を遠隔から制御する機能も一般的であり、電源のオン、オフ、再起動といった操作をネットワーク経由で実行できる。
KVM over IPは、特にデータセンターでのサーバー管理において不可欠なツールとなっている。物理的にサーバールームへ立ち入ることなく、多数のサーバーを効率的に管理できるため、運用コストと移動時間を大幅に削減できる。また、遠隔地の拠点や無人施設に設置された機器のメンテナンス、障害発生時の迅速な初動対応など、物理的なアクセスが困難な状況でその真価を発揮する。実装形態としては、既存のコンピュータに後付けで接続する外付け型の装置と、サーバーのマザーボードに「ベースボード管理コントローラ(BMC)」と呼ばれる管理用チップの一部として機能が組み込まれている内蔵型がある。現代の多くのサーバー製品には、iDRAC(Dell)、iLO(HPE)、IMM(Lenovo)といった名称で、この機能が標準搭載されている。サーバーの根幹部分をネットワーク経由で操作できる非常に強力な技術であるため、通信の暗号化や厳格なアクセス制御といったセキュリティ対策を徹底することが極めて重要である。