MQTT(エムキューティーティー)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

MQTT（Message Queuing Telemetry Transport）は、IoT（Internet of Things）デバイス間やM2M（Machine to Machine）通信において、効率的かつ信頼性の高いメッセージングを実現するために設計された、軽量なメッセージングプロトコルである。主に、低帯域幅、高レイテンシ、または不安定なネットワーク環境下でのデータ送信に特化しており、最小限のリソースで動作することが特徴である。

MQTTは、従来のクライアント/サーバーモデルとは異なる「パブリッシュ/サブスクライブモデル」を採用している。このモデルでは、メッセージを送信する側を「パブリッシャー（発行者）」、メッセージを受信する側を「サブスクライバー（購読者）」、そしてそれらのメッセージを中継するサーバーを「ブローカー」と呼ぶ。パブリッシャーは特定の「トピック」に対してメッセージを発行し、ブローカーはそのトピックを購読している全てのサブスクライバーにメッセージを配信する。これにより、パブリッシャーとサブスクライバーは直接接続する必要がなくなり、お互いの存在を知らなくてもメッセージのやり取りが可能となる。この疎結合性は、システム全体の柔軟性とスケーラビリティを高める。

詳細に入ると、MQTTプロトコルの軽量性は、その設計思想の根幹をなす。TCP/IP上で動作し、最小限のヘッダサイズでメッセージをやり取りすることで、通信量を削減する。これは、バッテリー駆動のデバイスや、通信速度が制限される環境で特に有利に働く。

メッセージの信頼性を保証するための機能として「QoS（Quality of Service）」が存在する。MQTTは3つのQoSレベルを定義しており、アプリケーションの要件に応じて選択できる。 QoS 0（At most once）：メッセージは最大で1回送信されるが、到達保証はない。最も高速で軽量だが、メッセージが失われる可能性がある。 QoS 1（At least once）：メッセージは少なくとも1回は到達することを保証する。受信側からの確認応答がない場合、送信側はメッセージを再送するため、メッセージが重複して届く可能性がある。 QoS 2（Exactly once）：メッセージは厳密に1回だけ到達することを保証する。最も信頼性が高いが、その分通信オーバーヘッドが増加する。これは、重要なデータが失われたり重複したりしないようにするケースで利用される。

MQTTのブローカーは、クライアントからの接続要求を受け付け、トピックに基づいてメッセージをルーティングする中央集約型のコンポーネントである。クライアントは、センサーデバイス、モバイルアプリケーション、Webサーバーなど、メッセージを送受信するあらゆるエンティティを指す。トピックはメッセージの分類に使用される階層構造の文字列で、例えば「home/livingroom/temperature」のように定義される。サブスクライバーは特定のトピック、またはワイルドカード（例: 「home/+/temperature」や「home/#」）を使って複数のトピックを購読できる。

さらに、MQTTには「永続セッション（Clean Session）」という概念がある。クライアントがブローカーに接続する際に「Clean Session」フラグをTrueに設定すると、セッションが終了すると同時に、そのクライアントの購読情報や未配信メッセージは破棄される。一方、Falseに設定すると、ブローカーはクライアントが切断された後もセッション状態を保持し、再接続時に未配信メッセージを送信したり、以前の購読を復元したりする。これにより、デバイスが一時的にオフラインになった場合でも、メッセージの継続的な送達を保証できる。

また、「Will Message（Last Will and Testament）」という機能も持つ。これは、クライアントがブローカーに接続する際に、自身が予期せず切断された場合にブローカーが特定のメッセージを特定のトピックに発行するよう事前に設定しておく機能である。例えば、デバイスが突然電源が落ちた場合に、その状態を他のデバイスや監視システムに通知するために利用される。

MQTTのメリットは、その低リソース要件、高い耐障害性、そして優れたスケーラビリティにある。多数のデバイスが同時に接続し、少量かつ頻繁なデータをやり取りするIoTシステムにおいて、非常に有効なプロトコルである。セキュリティ面では、TLS/SSLを利用して暗号化された通信をサポートすることで、データの機密性を確保する。認証機能も提供され、許可されたクライアントのみがブローカーに接続できるように設定できる。一方で、MQTT自体はメッセージのルーティングと配信に特化しており、メッセージの内容の処理や複雑なデータ変換機能は提供しないため、それらは上位のアプリケーション層で実装する必要がある。

MQTTはスマートホームデバイス、産業用IoT（IIoT）システムにおけるセンサーデータ収集、車両テレマティクス、リアルタイムのプッシュ通知など、多岐にわたる分野で利用されている。そのシンプルな設計と効率的な動作は、IoTの世界において不可欠な通信手段の一つとなっている。