遠隔手続き呼び出し(エンカクテツヅキヨビダシ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

遠隔手続き呼び出し(エンカクテツヅキヨビダシ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

遠隔手続き呼び出し (エンカクテツヅキヨビダシ)

英語表記

Remote Procedure Call (リモート プロシージャ コール)

用語解説

遠隔手続き呼び出し(Remote Procedure Call: RPC)は、異なるコンピュータ上に存在するプログラムが、あたかも同じコンピュータ内にあるかのように、互いの関数やプロシージャ(手続き)を呼び出して実行するための技術である。これは、現代の複雑な分散システムを構築する上で非常に重要な概念であり、複数のアプリケーションやサービスがネットワークを介して連携する際に広く利用される。RPCの目的は、ネットワーク通信の複雑さを開発者から隠蔽し、遠隔の処理をローカルの関数呼び出しと同じ感覚で扱えるようにすることで、システム開発の効率と保守性を高めることにある。例えば、データベースサーバーの機能をアプリケーションサーバーから呼び出す際や、マイクロサービスアーキテクチャにおいて異なるサービス間で連携する際などに利用される。

RPCの仕組みは、主に「クライアント」と「サーバー」、そしてそれらを仲介する「スタブ」によって実現される。クライアントは処理を要求する側であり、サーバーはその処理を提供する側である。スタブは、クライアントとサーバーの間に立ち、ネットワーク通信に関する複雑な処理を一手に引き受ける役割を担う。

具体的には、クライアント側には「クライアント側スタブ(プロキシ)」が存在し、サーバー側には「サーバー側スタブ(スケルトン)」が存在する。クライアントが遠隔の関数を呼び出す際には、まずクライアント側スタブに対してその呼び出しを行う。このとき、クライアントは遠隔の処理であることやネットワークの存在をほとんど意識しない。

クライアント側スタブは、クライアントから渡された関数の引数(パラメータ)を、ネットワークを通じて安全かつ効率的に送信できる形式に変換する。この変換プロセスを「マーシャリング(marshalling)」と呼ぶ。例えば、プログラム内の複雑なデータ構造を、バイト列や特定のデータ形式(JSON、XML、Protocol Buffersなど)に変換する。マーシャリングされたデータは、次にオペレーティングシステムやネットワークプロトコルスタック(例:TCP/IP)を通じて、物理的なネットワークを介してサーバーへ送信される。

サーバーは、ネットワークからデータを受信すると、それをサーバー側スタブに渡す。サーバー側スタブは、受信したデータをサーバー上の実際の関数が解釈できる元の形式に戻す。このプロセスを「アンマーシャリング(unmarshalling)」と呼ぶ。アンマーシャリングが完了すると、サーバー側スタブは、復元された引数を用いて、サーバーが提供する実際の関数を呼び出す。

サーバー上の関数は要求された処理を実行し、結果を生成する。この結果はサーバー側スタブに渡され、再びマーシャリングされてクライアントへ返送される。クライアント側スタブは、ネットワークから結果データを受信すると、それをアンマーシャリングして元の形式に戻し、最終的にクライアントにその結果を返す。このようにして、クライアントは遠隔の処理が完了し、その結果を受け取ったことを認識できる。この一連の動作は、開発者にとってはあたかもローカルの関数が実行されたかのように透過的に見える。

RPCの導入には複数のメリットがある。まず、最も重要な点は「透過性」である。開発者はネットワーク通信の複雑な実装(ソケットプログラミング、データ直列化、エラーハンドリングなど)を意識することなく、遠隔の処理をローカルの関数呼び出しと同じように扱えるため、開発の労力が大幅に削減される。これにより、システム開発の効率が向上し、リリースまでの時間を短縮できる。また、異なるプログラミング言語やオペレーティングシステムで実装されたシステム間でも、RPCを通じて連携が可能になるため、「モジュール性」が高まり、システム全体の疎結合化が促進される。これは、大規模な分散システムやマイクロサービスアーキテクチャにおいて特に有効である。

一方で、RPCにはいくつかの課題も存在する。最大の課題は「ネットワークへの依存性」である。ネットワークの遅延はRPCのパフォーマンスに直接影響し、帯域幅の制限やネットワーク障害はシステム全体の信頼性を損なう可能性がある。そのため、堅牢なエラーハンドリングやタイムアウト処理の実装が重要となる。また、ネットワーク経由でデータが送受信されるため、「セキュリティ」対策は不可欠である。認証、認可、データ暗号化などの措置を講じる必要がある。異なるシステム間でデータを交換する際には、「データ形式の互換性」も考慮しなければならない。マーシャリングとアンマーシャリングのプロセスにおいて、双方が理解できる共通のデータ形式(スキーマ)を厳密に定義し、維持する必要がある。さらに、複数のRPC呼び出しにまたがる処理において、全てが成功するか全てが失敗するかを保証する「分散トランザクション」の管理は、単一システム内のトランザクションよりも格段に難しくなる傾向がある。

現代のシステム開発では、さまざまなRPCの実装やフレームワークが利用されている。例えば、Googleが開発した「gRPC」は、HTTP/2プロトコルを基盤とし、Protocol Buffersというデータシリアル化形式と組み合わせることで、高パフォーマンスかつ多言語対応を実現し、マイクロサービス間の通信手段として広く普及している。また、「RESTful API」もしばしばRPCと比較されるが、RESTは「リソース」の概念に重点を置き、HTTPメソッド(GET, POST, PUT, DELETEなど)を用いてリソースを操作するアプローチであるのに対し、RPCは「手続き(関数)」の呼び出しに重点を置く点で違いがある。これらの技術はそれぞれ異なる特性を持ちながら、分散システムにおけるプログラム間連携の課題解決に貢献しており、システムエンジニアを目指す者にとって、RPCの基本的な理解は、現代のITシステムの根幹を理解するための重要な一歩となる。

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