【ITニュース解説】The Smart Display Google Should Have Made: My E-Ink Rebellion Against Tech Obsolescence
2025年09月09日に「Dev.to」が公開したITニュース「The Smart Display Google Should Have Made: My E-Ink Rebellion Against Tech Obsolescence」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
Google製スマートディスプレイの将来性に不安を感じた開発者が、オープンソースのE-ink端末とサーバーレス技術で自作。APIで血糖値や天気など自分に必要な情報のみを取得し、ベンダーに依存しない低消費電力な個人用ダッシュボードを構築した。(120文字)
ITニュース解説
Google Nest Hubのようなスマートディスプレイは、音声で天気予報を聞いたり、今日の予定を確認したりできる便利なデバイスだ。しかし、こうした市販の製品には、メーカーが開発やサポートを終了してしまうと、手元のデバイスが時代遅れになり、最終的には使えなくなるというリスクが常に存在する。これは「計画的陳腐化」とも呼ばれる問題で、過去にGoogleが多くの人気サービスを突然終了させてきた歴史を考えると、現在市販されている製品も将来安泰とは限らない。実際に、Nest Hubシリーズは2021年以降新しいハードウェアが登場しておらず、将来のアップデート計画も限定的であるため、製品ラインの終焉が近いのではないかと懸念されている。このような大手IT企業の商業的な都合に左右される状況から脱却し、ユーザー自身が主体となって、長期間安心して使えるデバイスを構築しようという試みがある。その一つが、オープンソースの技術を活用して、自分だけのスマートディスプレイを自作するというアプローチだ。
この自作スマートディスプレイは、市販品とは全く異なる設計思想に基づいている。まず最も重要なのは、ソフトウェアとハードウェアの両方がオープンソースであることだ。オープンソースとは、設計図やプログラムのソースコードが一般に公開されており、誰でも自由に利用、改変、再配布できる仕組みを指す。これにより、仮に元の開発者がサポートを打ち切ったとしても、世界中の有志や自分自身でメンテナンスを続け、デバイスを永続的に使い続けることが可能になる。次に、ディスプレイにはE-ink(電子ペーパー)を採用している点が特徴的だ。E-inkは電子書籍リーダーなどで利用されており、バックライトを使わないため目に優しく、紙に印刷されたような落ち着いた表示が可能だ。また、画面の表示を切り替える瞬間にしか電力を消費しないため、非常に省エネルギーである。これにより、常に画面が光っていることによる無意識のストレスから解放され、月々の電気代もLEDの常夜灯以下に抑えることができる。
セキュリティとプライバシーへの配慮も徹底している。この自作ディスプレイには、盗聴や盗撮のリスク源となりうるカメラやマイクが物理的に搭載されていない。データの流れも、必要な情報をインターネットから受け取るだけの一方向に限定されており、デバイスから外部へ意図しない情報が送信される心配がない。さらに、将来性も考慮されている。システムの各機能は、API(Application Programming Interface)と呼ばれる標準的な技術規格に基づいて連携している。APIとは、異なるソフトウェアやサービス同士が情報をやり取りするための共通の窓口のようなものだ。標準的なAPIを利用することで、将来的にデータ取得元のサービスを変更したり、処理に使うクラウドサービスを乗り換えたり、あるいはデバイス本体の基板を新しいものに交換したりすることが容易になる。特定の企業の独自技術に縛られることなく、時代に合わせてシステムを柔軟に進化させ続けられるのだ。
このディスプレイを実現するためのシステムの仕組みは、現代的な技術を巧みに組み合わせることで成り立っている。まず、表示したい情報をインターネット上から集める必要がある。例えば、血糖値のデータ、バスの運行情報、天気予報といった異なる種類の情報は、それぞれ専門のサービスがAPIを通じて提供している。これらのAPIを定期的に呼び出すことで、最新のデータを自動的に取得する。次に、集めた複数のデータを一つのまとまりに加工する処理が必要になる。この処理には、BuildShipのようなサーバーレスのプラットフォームが活用されている。サーバーレスとは、開発者がサーバーの管理や運用を気にすることなく、プログラムコードの実行環境だけを利用できるクラウドサービスの形態だ。プログラムが実行された時間や回数に応じて課金されるため、個人開発のような小規模なシステムを非常に低コストで運用できる。このプラットフォーム上で、各APIから取得したデータを、コンピューターが扱いやすいJSONという形式のデータに統合する。
データが整理されたら、次はそのデータを元にE-inkディスプレイに表示するための画像を生成する。ここでは、Web開発で広く使われるJavaScriptというプログラミング言語が用いられる。血糖値の数値やバスの到着時刻、天気アイコンなどを、あらかじめ決められたレイアウトに従って配置し、最終的に白と黒の二色だけで構成されるビットマップ(BMP)形式の画像データに変換する。そして、生成された画像データは、インターネット上の特定のURL(エンドポイント)からアクセスできるように公開される。最後に、TRMNLと呼ばれるオープンソースのE-inkディスプレイ端末が、このエンドポイントに対して定期的にアクセス(ポーリング)を行う。新しい画像データがあればそれをダウンロードして画面を更新し、処理が終わると消費電力を極限まで抑えるスリープモードに入る。この一連の流れが数分おきに繰り返されることで、常に最新の情報が表示され続ける、静かで省エネなパーソナルダッシュボードが完成する。
このプロジェクトは、単なる電子工作の域を超え、大手企業の閉鎖的な製品エコシステムに対する一つのアンサーを示している。オープンソースのハードウェアとソフトウェア、そしてサーバーレスのような柔軟なクラウド技術を組み合わせることで、個人でも自分自身のニーズに完璧に合致した、安全で持続可能な情報ツールを構築できることを証明した。これは、特定の製品やサービスに依存するのではなく、汎用的な技術を組み合わせて課題を解決するという、システムエンジニアリングの本質的な面白さと可能性を体現した事例と言えるだろう。