【ITニュース解説】Oracle Database 23ai: Key Features and MCP Integration

Oracle Database 23aiは、データベース技術の大きな進化を示すもので、人工知能（AI）の機能をデータベースのエンジンの中に直接組み込んだ点が特徴だ。これは、これまで別々のシステムとして扱われることが多かったAIとデータベースを、より密接に連携させ、強力なAI駆動型アプリケーションを開発するための基盤を提供する。システムエンジニアを目指す皆さんにとって、この新しいデータベースがどのような可能性を開くのか、主要な機能と、その中心的な役割を果たすModel Context Protocol (MCP) について詳しく解説する。

まず、Oracle 23aiの主な機能を見ていこう。

一つ目は「AI Vector Search」だ。これは、テキストや画像などの非構造化データをデータベース内に保存し、その意味的な類似性に基づいて検索できる機能である。従来のデータベースがキーワードによる一致検索が中心だったのに対し、AI Vector Searchはデータの「意味」を理解して関連性の高い情報を探し出す。例えば、「夕焼けの写真」という検索に対して、たとえキーワードが含まれていなくても、夕焼けの画像そのものや、関連する詩文などを提示できる。この機能は、最近注目されているRAG（Retrieval-Augmented Generation）というAIアーキテクチャに最適で、生成AIがより正確で豊富な情報を基に回答を生成するために利用される。複数の埋め込みモデル（データを数値のベクトルに変換するAIモデル）をサポートしており、多様なAIアプリケーションに対応できる。

二つ目は「JSON Relational Duality Views」である。これは非常に革新的な機能で、データベース内のデータをJSONドキュメントとしても、従来の表形式（リレーショナルデータ）としても、どちらの形式でも扱えるようにする。現代のWebアプリケーションやマイクロサービスではJSON形式のデータが頻繁に使われる一方で、既存のシステムや分析ではリレーショナルデータが中心だ。このデュアルビュー機能により、開発者はデータの形式を気にすることなく、必要な形式でアクセスできるため、アプリケーション開発の柔軟性が大幅に向上する。データ変換の手間が省け、異なるアプリケーション間での連携がスムーズになるだろう。

三つ目は「Operational Property Graphs」だ。これは、関係性に着目したグラフ構造のデータをデータベース内で直接保存し、SQL（データベースを操作するための言語）を使ってクエリできる機能である。通常、グラフデータを扱うには専用のグラフデータベースが必要だったが、Oracle 23aiでは既存のリレーショナルデータとグラフデータを統合して扱える。ソーシャルネットワークでの人間関係分析、金融詐欺の検知、推薦システム、知識グラフの構築など、複雑な関係性を分析するアプリケーションでその真価を発揮する。

四つ目は「SQL Firewall」である。これは、データベースへの不正なアクセスやSQLインジェクション攻撃といったサイバー攻撃からデータベースを保護するためのセキュリティ機能だ。データベースのカーネルレベルで動作し、データベースに送られてくるSQL文をリアルタイムで監視し、不審な、あるいは攻撃の可能性があるSQL文を自動的にブロックする。これにより、重要なデータが不正に操作されたり、漏洩したりするリスクを大幅に低減し、データベースのセキュリティを堅牢にする。

五つ目は「True Cache」だ。これは、読み取り処理が多いアプリケーションのパフォーマンスを劇的に向上させるためのディスクレスのインメモリキャッシュ機能だ。頻繁にアクセスされるデータをメモリ上に保持することで、ディスクアクセスを減らし、応答速度を高速化する。しかも、データの鮮度管理を自動で行うため、キャッシュされたデータが古くなる心配も少ない。Webサイトやモバイルアプリのように、多くのユーザーが同じ情報を参照するようなシステムで特に効果を発揮する。

そして、これらの新機能をAIアプリケーションから活用するための重要な橋渡し役となるのが「Model Context Protocol (MCP) Server」である。MCPは、AIアシスタントやAIエージェントがOracle 23aiデータベースと直接連携するためのネイティブな仕組みだ。AIがSQL文を生成し、それを実行し、その結果を分析する、といった一連のプロセスを、データベースのセキュリティポリシーを遵守しながら安全に行うことができる。これにより、AIはデータベースの持つ膨大なデータと高度な機能を直接利用できるようになり、より賢く、より強力なAIアプリケーションの実現が可能になる。

Oracle 23aiは他にも多くの改良が加えられている。例えば、高い可用性を実現するRaftレプリケーション、開発者がデータベースを扱いやすくするためのDB_DEVELOPER_ROLEの強化、ネイティブな真偽値型（Booleanデータ型）のサポート、DML文での直接結合、ワイドテーブルのサポート、そして全体的なパフォーマンス最適化などが含まれる。

MCPは、これらのOracle 23aiの高度な機能をAIアプリケーションから効果的に利用するための中心的な役割を果たす。AIエージェントがMCPサーバーを通じてデータベースと通信することで、次のような連携が可能になる。

まず、MCPサーバーを有効化することで、AIエージェントがデータベースと対話するためのインターフェースが確立される。AIエージェントはMCPを通じてAI Vector Searchにセマンティック検索リクエストを送信し、意味に基づいた情報の検索を実行できる。JSON Relational Dualityの機能もMCPを介して利用可能で、AIはJSON形式のクエリでも、従来のリレーショナルSQLでもデータにアクセスでき、Oracle 23aiがその変換を透過的に処理する。

グラフクエリもMCPを介してAIエージェントに公開され、AIがSQL/PGQ構文を使って複雑な関係性を分析できる。さらに、MCP経由で発行されるすべてのSQLコマンドは、SQL Firewallによってリアルタイムで監視され、セキュリティポリシーが強制され、不審な動作はブロックされる。True Cacheは、AIエージェントが読み取り処理を行う際に、高速なインメモリ応答を保証し、システム全体のデータ一貫性を維持する。開発者向けのDB_DEVELOPER_ROLEも、MCPを利用するAIエージェントや開発ツールが、安全に必要なデータベースコンポーネントにアクセスするために活用される。

実際のワークフローを例に取って考えてみよう。例えば、Oracle 23aiとMCPを使ってAI駆動型の顧客サポートシステムを構築する場合だ。

ユーザーが過去のサポートチケットの中から類似するものを探すようAIエージェントに依頼するところから始まる。まず、AIエージェントはこの要求をMCPサーバーに送る。MCPサーバーは、AI Vector Search機能を利用して、過去の大量のチケットデータの中から、意味的に最も類似性の高いチケットを検索する。この際、SQL Firewallがベクトル検索クエリが安全であることを確認し承認する。データベースは、最も関連性の高いチケットのIDと類似度スコアをAIエージェントに返す。

次に、AIエージェントは、これらの関連チケットに関する詳細情報を要求する。ここでは、JSON Relational Dualityの柔軟性を活用し、チケットデータをJSON形式で取得したり、またはグラフSQLを使って顧客のインタラクション履歴や関連する問い合わせなどの関係性ベースの洞察をプロパティグラフから引き出したりする。この一連のプロセスの中で、True Cacheは頻繁にアクセスされるチケット情報に対して高速な応答時間を保証し、SQL Firewallはすべてのデータベース操作を継続的に監視する。MCPは、この全ての過程で安全なコミュニケーションを維持する役割を担う。

このように、Oracle Database 23aiとMCPの統合は、AIアプリケーションが企業のデータと対話する方法に大きな変化をもたらす。高度なAI機能と堅牢なセキュリティ、そして優れたパフォーマンスを組み合わせることで、企業は強力かつ安全なインテリジェントアプリケーションを構築できるようになる。AI Vector Search、JSON Relational Duality、プロパティグラフといった先進的な機能がMCPを通じて統合されることで、これまでになかった洗練されたAI駆動型ソリューションを開発する機会が生まれる。企業がAI技術をさらに活用していく中で、Oracle 23aiは次世代のデータ駆動型アプリケーションを構築するための強固な基盤を提供するだろう。

まずは、自分のシステムでAIとデータベースの統合がどのような価値を生むかを見極めることから始めるのが良いだろう。次に、MCPが既存の技術スタックにどのように組み込まれるかを設計し、小さなプロジェクトからプロトタイプを作成しテストする。その上で、成功した結果に基づいて徐々に利用範囲を拡大し、Oracleの監視ツールを使ってパフォーマンスを最適化していくことが推奨される。エンタープライズデータ管理の未来は、AIとデータベース技術のシームレスな統合にかかっている。Oracle 23aiとMCPは、その未来を今日から構築するためのツールを提供していると言えるだろう。