I2S(アイツース)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

I2S(アイツース)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

アイツース (アイツース)

英語表記

I2S (アイツース)

用語解説

I2SはInter-IC Soundの略称であり、デジタルオーディオデータを集積回路(IC)間で伝送するために標準化されたシリアル通信インターフェース規格である。1986年にフィリップス社(現在のNXPセミコンダクターズ)によって開発された。この規格は、特にCDプレーヤーやデジタルアンプ、デジタル-アナログ変換器(DAC)、アナログ-デジタル変換器(ADC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)といった、デジタルオーディオ処理を行うIC間の接続に広く利用されている。I2Sの主な目的は、デジタルオーディオ信号を劣化させることなく、かつシンプルな配線で効率的にICからICへと伝送することにある。デジタルオーディオの世界では、データの正確性だけでなく、伝送のタイミング精度が音質に直接影響するため、I2Sのようにタイミングを管理しやすいインターフェースが不可欠となる。

デジタルオーディオシステムでは、アナログの音波をサンプリングという処理によって数値データに変換して扱う。このデジタル化された音声データをIC間でやり取りする必要がある。I2Sが登場する以前は、パラレルインターフェースなどが用いられることもあったが、配線数が多くなり基板設計が複雑になるという課題があった。I2Sは、シリアル通信方式を採用することでこの問題を解決した。シリアル通信はデータを1ビットずつ順番に送る方式であり、最小限の配線で通信が可能となる。I2Sの基本的な構成は、主に3本の信号線から成る。1つ目はシリアルクロック(SCKまたはBCLK)で、データを1ビットずつ送受信する際のタイミングを合わせるためのクロック信号である。2つ目はワードセレクト(WSまたはLRCLK)で、ステレオ音声の左チャンネル(L)と右チャンネル(R)のどちらのデータであるかを区別するための信号である。サンプリング周波数と同じ周波数を持ち、信号のHigh/Lowによって左右のチャンネルを示す。3つ目はシリアルデータ(SDまたはSDATA)で、実際のオーディオデータがこの線を通って転送される。これら3本の信号線に加えて、システムによってはマスタークロック(MCLK)と呼ばれる、より高周波の基準クロックが用いられることもある。MCLKは、DACなどのICが内部で高精度なクロックを生成するために必要となる場合があり、オーディオシステム全体の同期と精度を向上させる役割を担う。

I2S通信では、クロック信号を生成する「マスター」と、そのクロック信号を受信して動作する「スレーブ」という役割が存在する。どちらのICがマスターになるかはシステムの設計によって決まるが、一般的にはデータを送信する側や、システム全体の制御を行うマイクロコントローラなどがマスターとなることが多い。通信のプロセスは以下の通り進行する。まず、マスターがWS信号を切り替えることで、これから送信するのが左チャンネルのデータか右チャンネルのデータかを示す。次に、マスターはSCK信号を生成し、そのクロックのタイミングに合わせて、SD信号線にオーディオデータを1ビットずつ出力する。スレーブ側は、同じSCK信号のタイミングでSD信号線のデータを読み取り、デジタルオーディオデータとして再構築する。I2S規格の大きな特徴は、クロック信号(SCK, WS)とデータ信号(SD)が完全に分離されている点にある。これにより、受信側(スレーブ)はデータ信号からクロック情報を抽出する必要がなく、タイミングのずれである「ジッター」の発生を抑制できる。ジッターはデジタルオーディオの音質を劣化させる主要な要因の一つであるため、これを低減できるI2Sは高音質なデータ伝送に適している。また、標準的なI2Sフォーマットでは、WS信号が変化してから1クロックサイクル分遅れて、データの最上位ビット(MSB)の転送が開始されるというタイミング規定がある。

標準的なI2Sフォーマットはフィリップスフォーマットとも呼ばれるが、実際にはいくつかのバリエーションが存在する。例えば、「左詰め(Left-justified)」フォーマットでは、WS信号の変化と同時にデータのMSBが転送される。「右詰め(Right-justified)」フォーマットでは、ワードの最後のビット(LSB)がWS信号の変化の直前に来るようにデータが配置される。これらのフォーマットは、使用するオーディオコーデックICなどのデータシートで規定されており、システムを設計する際にはマスター側とスレーブ側でフォーマットを一致させる必要がある。さらに、近年では多チャンネルオーディオを扱うために「TDM(Time Division Multiplexing:時分割多重)」という方式も利用される。TDMは、I2Sと同様の信号線構成を使いながら、1つのサンプリング周期内を複数のタイムスロットに分割し、1本のSD線で複数のチャンネルのデータを順番に伝送する技術である。これにより、サラウンドシステムのような多チャンネルオーディオも少ない配線で実現できる。

I2Sの最大の利点は、前述の通り、クロックとデータが分離していることによる高音質伝送と、3本から4本という少ない信号線で済むシンプルな回路構成にある。これにより、基板設計が容易になり、コスト削減にも寄与する。しかし、注意点も存在する。I2SはIC間の短距離接続を前提とした規格であり、基板上の配線を想定している。そのため、長いケーブルで引き伸ばすような長距離伝送には適しておらず、信号の反射やノイズの影響で通信エラーが発生しやすくなる。また、I2Sという名称で呼ばれていても、メーカーやデバイスによってデータフォーマットやタイミングの細かな仕様が異なる場合があるため、接続するIC同士のデータシートを十分に確認し、仕様を合わせることが極めて重要である。特に、データのビット長(16bit, 24bit, 32bitなど)やサンプリング周波数、マスタークロックの要否といったパラメータは、システムが正しく動作するための鍵となる。

結論として、I2Sはデジタルオーディオ機器の内部において、IC間で高品質なオーディオデータを伝送するための、シンプルかつ信頼性の高いシリアルインターフェース規格である。SCK、WS、SDという基本信号線によって構成され、クロックとデータを分離することでジッターを抑制し、高音質を実現する。システムエンジニア、特に組み込みシステムやオーディオ製品の開発に携わる者にとって、I2Sの動作原理や特性を理解することは、ハードウェアレベルでの音声データの流れを把握し、適切なシステム設計を行う上で不可欠な知識と言える。そのシンプルさゆえに広く普及しているが、細かな仕様の違いには注意を払い、データシートに基づいた正確な実装が求められる。

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