遠隔操作ウイルス(エンカクソウサウイルス)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

遠隔操作ウイルス(エンカクソウサウイルス)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

遠隔操作ウイルス (エンカクソウサウイルス)

英語表記

RAT (ラット)

用語解説

遠隔操作ウイルスとは、コンピュータに感染し、外部の攻撃者がそのコンピュータをネットワーク経由で不正に操作することを可能にするマルウェアの一種である。この種のウイルスは、感染したシステムにバックドアと呼ばれる裏口を作り出し、攻撃者がインターネット経由でアクセスできるようにする機能を主に持つ。システムエンジニアを目指す上で、このような脅威の仕組みを理解することは、セキュリティ対策の基礎となる。

遠隔操作ウイルスは、その性質から「RAT (Remote Access Trojan)」、すなわちリモートアクセス型トロイの木馬とも呼ばれることが多い。これは、正規のソフトウェアやデータファイルのように見せかけ、ユーザーを欺いてシステムに侵入する「トロイの木馬」の一種であり、一度侵入すると攻撃者による遠隔からの操作を許してしまうため、その危険性は非常に高い。RATは、攻撃者が自身のコンピュータからインターネットを介して、感染したコンピュータに対して命令を送信し、その結果を受け取るという形で動作する。

具体的な侵入経路としては、まず電子メールが挙げられる。フィッシングメールや標的型攻撃メールに添付された不正なファイルを開いたり、メール本文中の悪意あるURLをクリックしたりすることで感染するケースが多い。また、正規のWebサイトが改ざんされていたり、不正な広告が埋め込まれていたりするWebサイトを閲覧しただけで、ユーザーが意図せずマルウェアがダウンロード・実行される「ドライブバイダウンロード」によって感染することもある。OSやアプリケーションソフトウェアの既知の脆弱性を悪用する「エクスプロイト」によって、ユーザーが気づかないうちに侵入を許してしまうケースも存在する。さらに、ファイル共有ソフトウェアや、不正に改ざんされたソフトウェアのインストーラを通じて感染が拡大することもある。

遠隔操作ウイルスがシステムに侵入すると、多くの場合、システム起動時に自動的に実行されるよう設定され、常にバックグラウンドで動作し続ける。これにより、攻撃者がいつでもアクセスできる状態を作り出すため、システム内に「バックドア」を確立する。次に、攻撃者が用意した「C&Cサーバー(Command & Controlサーバー)」と呼ばれる司令塔サーバーとの通信を確立する。この通信経路を通じて、攻撃者は感染したコンピュータに対して様々な命令を送り、そのコンピュータから情報を窃取したり、新たなマルウェアをダウンロード・実行させたりする。C&Cサーバーとの通信は、正規のWeb通信プロトコルであるHTTP/HTTPSや、一般的なTCP/UDPポートを偽装して行われることが多く、通常のネットワーク監視では不正な通信として検出しにくい場合がある。

攻撃者が遠隔操作ウイルスを通じて実行できる機能は多岐にわたる。例えば、感染したコンピュータ上のファイルを自由に閲覧、編集、削除、アップロード、ダウンロードするといったファイル操作が可能である。キーボード入力をすべて記録する「キーロギング」機能により、ユーザーIDやパスワード、クレジットカード情報などの機密情報を窃取される恐れがある。また、スクリーンショットを定期的に取得したり、Webカメラやマイクを勝手に起動してユーザーの状況を盗撮・盗聴したりすることも可能である。これらの情報が窃取されると、オンラインバンキングの不正送金、SNSアカウントの乗っ取り、機密情報の漏洩といった深刻な被害につながる。さらに、感染したコンピュータを別のサイバー攻撃の「踏み台」として利用し、DDoS攻撃(分散型サービス拒否攻撃)に参加させたり、スパムメールの送信源としたりすることもできる。システムの設定変更、プロセスの終了、他のマルウェアのダウンロード・実行なども自由に制御されるため、システム全体が攻撃者の意のままに操られてしまう。

遠隔操作ウイルスの検出は、感染してもユーザーに気づかれにくいという特性から困難を伴う。バックグラウンドで静かに動作し、正規のプロセス名やサービス名を偽装することがあるため、タスクマネージャーなどを見ても異常を発見しにくい。また、アンチウイルスソフトウェアによる検出を回避するために、様々な難読化や隠蔽の技術が施されていることが多い。

このような遠隔操作ウイルスによる被害を防ぐためには、複数の対策を講じることが重要である。予防策としては、信頼できるアンチウイルスソフトウェアを導入し、パターンファイルを常に最新の状態に保つことが不可欠である。OSやアプリケーションソフトウェアのセキュリティパッチは速やかに適用し、既知の脆弱性を解消することが重要である。不審なメールの添付ファイルは開かない、不審なURLはクリックしないといった基本的なセキュリティ意識を持つこと、そして身元不明のソフトウェアを安易にインストールしないことも非常に大切である。Webサイト閲覧時には、安全な通信であるHTTPSで接続されているかを確認する習慣も役立つ。さらに、オンラインサービスでは二段階認証を積極的に利用し、システムやアカウントのパスワードは推測されにくい強力なものを設定し、定期的に変更することも推奨される。ファイアウォールを適切に設定し、不要な通信をブロックすることも有効な防御策となる。万が一、遠隔操作ウイルスに感染してしまった疑いがある場合は、直ちに感染したコンピュータをネットワークから切断し、それ以上の情報漏洩や被害拡大を防ぐことが最優先である。その後は、システムの使用を停止し、専門家やセキュリティベンダーに相談して適切な対応を仰ぐべきである。場合によっては、システムの初期化や再構築が必要となることもある。