【ITニュース解説】Getting started: Your GreenOps implementation roadmap

デジタル技術の革命は私たちの働き方や生活を劇的に変えたが、その裏では地球環境への負荷という代償も生み出している。IT分野全体が世界の温室効果ガス排出量に占める割合は年々増加しており、このままでは2040年までに14%に達するという予測もある。ソフトウェアが社会のあらゆる場面で活用されるようになるにつれて、その開発や運用が地球の資源を前例のない規模で消費しているという現実がある。このような課題に対応するため、ソフトウェア開発の全工程に環境への配慮を統合する「DevGreenOps」という新しいアプローチが注目されている。

DevGreenOpsとは、デジタルサービスを開発する際に、そのアプリケーションが環境に与える影響を測定し、継続的に改善していくための文化や手法を指す。かつて、セキュリティ対策を開発者や運用担当者など関係者全員の責任とする「DevSecOps」という考え方が広まったが、それと同様に、環境への影響を開発に関わる全員の「自分ごと」として捉えるのがDevGreenOpsである。これまでのソフトウェア開発では、パフォーマンスや信頼性、セキュリティといった指標が重視されてきた。DevGreenOpsは、これらに加えて「環境持続性」を重要な評価軸とし、計画、コーディング、テスト、デプロイ、監視といったソフトウェア開発ライフサイクルのあらゆる段階で、環境負荷を低減するための意思決定を行っていく。

この考え方が今、急速に重要性を増しているのには三つの理由がある。第一に、デジタル化の進展による環境負荷の増大だ。データセンターは世界の電力の約1%を消費しており、その消費量は毎年増加し続けている。エンジニアが書くコードの一行一行、実行するデプロイの一つ一つが、この環境負荷に直接つながっている。第二に、ビジネスを取り巻く環境の変化が挙げられる。多くの企業が持続可能性への取り組みを経営目標に掲げるようになり、エネルギー消費の削減はそのまま運用コストの削減に直結するため、財務的なインセンティブも大きい。また、環境に関する法規制も世界的に強化されている。第三の理由は、環境配慮と効率化が密接に関連している点である。例えば、コードを最適化してCPUの使用サイクルを減らしたり、不要なデータ転送をなくしたり、稼働していないサーバーを停止したりする取り組みは、システムのパフォーマンスを向上させると同時に、消費電力を削減し、二酸化炭素排出量を減らすことにつながる。つまり、環境に優しくすることは、多くの場合、ビジネスの効率化や収益性の向上にも直接貢献するのである。

DevGreenOpsの実践は、従来の開発工程に「環境」という新しい視点を加えることで行われる。計画段階では、実装する機能の利便性だけでなく、それがもたらす環境コストも考慮する。コーディング段階では、よりエネルギー効率の高いプログラミング言語を選択したり、計算量の少ないアルゴリズムを採用したりすることで、根本的な消費エネルギーを削減する。テスト段階では、アプリケーションが実際にどれくらいのエネルギーを消費するのかを測定し、環境性能の基準値を設ける。そしてリリースやデプロイの段階では、設定した環境基準を満たさないコードが本番環境に展開されるのを防ぐ「品質ゲート」のような仕組みを導入する。運用・監視段階では、サーバーのリソース使用状況を継続的に監視し、過剰なリソースを割り当てることなく、常に「必要十分」なインフラでシステムを稼働させることを目指す。

DevGreenOpsを組織に導入し、文化として定着させるためには、実績のある「CALMSフレームワーク」を応用することが有効だ。これは、文化(Culture)、自動化(Automation)、リーン(Lean)、測定(Measurement)、共有(Sharing)の五つの要素からなる。まず、組織全体で環境目標を共有し、エンジニアが自身の仕事と環境への影響を結びつけて考えられるような文化を醸成することが不可欠である。次に、環境負荷の測定や最適化のプロセスをCI/CDパイプラインなどに組み込んで自動化し、環境への配慮を特別な作業ではなく日常的なものにする。そして、無駄をなくすというリーンの考え方を適用し、使われていないリソースを徹底的に排除する。さらに、二酸化炭素排出量やエネルギー消費量といった環境に関する指標を継続的に測定し、データに基づいた改善を繰り返す。最後に、成功した取り組みや得られた知見をチームや組織全体で共有し、全体のレベルアップを促進することが重要だ。

このアプローチを導入することは、企業に多くのメリットをもたらす。エネルギーやインフラにかかるコストの直接的な削減に加え、環境に配慮する企業としてブランドイメージが向上し、市場での競争優位性を確立することにも繋がる。また、将来強化されるであろう環境規制への対応というリスク管理の観点からも極めて重要である。もちろん、導入の過程では、適切なツールの選定といった技術的な課題や、新しいやり方に対する組織内の心理的な抵抗といった困難も予想される。しかし、これらは一つのチームやアプリケーションから小さく始め、コスト削減といった分かりやすい成功事例を積み重ねていくことで、着実に乗り越えることが可能だ。

DevGreenOpsは、単なる社会貢献活動ではなく、コスト、パフォーマンス、そして地球環境の持続可能性を同時に追求するための、戦略的なソフトウェア開発手法である。これからのシステムエンジニアにとって、環境への影響を考慮した設計や開発を行うスキルは、ますます重要なものとなっていくであろう。