【ITニュース解説】Microsoft Just Open-Sourced the Original 6502 BASIC Interpreter

2025年09月06日に「Dev.to」が公開したITニュース「Microsoft Just Open-Sourced the Original 6502 BASIC Interpreter」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

Microsoftが、Apple IIなど初期のPCを動かした「6502 BASIC」のソースコードを公開。言語の仕組みやメモリを極限まで節約する技術など、プログラミングの原点をアセンブリ言語から学べる貴重な資料だ。

ITニュース解説

マイクロソフトは先日、コンピュータの歴史において非常に重要なソフトウェアである「6502 BASICインタプリタ」の完全なソースコードを、オープンソースとして公開した。これは、1970年代後半から1980年代にかけてパーソナルコンピュータ革命を牽引した、Apple IIやコモドールPETといった伝説的なマシンに搭載されていたプログラムそのものである。システムエンジニアを目指す者にとって、この歴史的なコードは、現代のソフトウェア開発の根底にある原理を学ぶための貴重な教材となる。

このソフトウェアが開発された1976年当時、コンピュータはまだ専門家だけが扱う高価で複雑な機械だった。ビル・ゲイツとポール・アレンが創業したばかりのマイクロソフトは、新しく登場した「マイクロコンピュータ」の可能性を見出し、誰もが簡単にプログラムを作れるようにするためのソフトウェアを開発した。それがBASICインタプリタである。BASICは比較的習得しやすいプログラミング言語であり、このインタプリタのおかげで、専門家でなくても自分の手でコンピュータを操作し、独自のプログラムを作成できるようになった。このインタプリタが動作したCPUが「6502」プロセッサであり、Apple II、コモドールPET、アタリの家庭用ゲーム機、そして任天堂のファミリーコンピュータなど、当時の象徴的なマシンの多くに採用されていた。つまり、今回公開されたコードは、パーソナルコンピューティングという文化そのものを創り出した、まさに原点の一つと言える。

公開されたソースコードは、アセンブリ言語で記述されている。これは、コンピュータのCPUが直接理解できる機械語に非常に近い、低レベルなプログラミング言語である。現代のプログラミング言語のように抽象化されておらず、メモリの番地やCPUのレジスタを直接操作するため、コンピュータがどのように動作するのかを根本から理解することができる。特に驚くべきは、このプログラムが極めて厳しい制約の中で作られている点である。当時の一般的なコンピュータは、搭載されているメモリがわずか4KB(キロバイト)程度だった。これは現代のスマートフォンで撮影した写真一枚のデータ量よりも遥かに小さい。開発者たちは、この限られた記憶領域にプログラム本体だけでなく、ユーザーが作成したプログラムやその実行に必要な変数もすべて収めなければならなかった。そのため、ソースコードの随所には、1バイトたりとも無駄にしないための徹底したメモリ管理の工夫が見られる。

また、技術的な観点から見ても、このコードには学ぶべき点が多く含まれている。例えば、浮動小数点数の計算処理は非常に高度な技術の結晶である。現代のコンピュータには、小数点以下の数値を高速に計算するための専用回路がCPUに内蔵されているが、当時はそのようなものは存在しなかった。足し算や引き算といった基本的な命令しか持たないCPUを使い、すべてソフトウェアの工夫だけで複雑な数学的計算を実現していた。そのアルゴリズムは、効率性を極限まで追求したものであり、リソースが限られた環境でのプログラミングにおける一つの完成形を示している。さらに、ユーザーが入力した「PRINT "HELLO"」のようなBASICの命令文を、コンピュータが理解できる命令の列に分解し、解釈する「パーサー」や「トークナイザ」と呼ばれる部分も、非常に洗練された設計となっている。

この40年以上前のコードが、現代のエンジニア、特にこれからシステム開発の世界を目指す初心者にとって重要なのは、コンピュータサイエンスの普遍的な原理を教えてくれるからだ。まず、プログラミング言語がどのように機能するのか、その心臓部である「インタプリタ」の構造を最も原始的な形で学べる。また、メモリやCPUサイクルといった計算資源を極限まで最適化する技術は、現代でもIoTデバイスや組み込みシステム、あるいは高いパフォーマンスが要求されるアプリケーション開発において直接的に役立つ知識である。普段私たちが使っている高水準なプログラミング言語やコンパイラが、内部でどのような最適化を行っているのかを理解する上でも、このコードは最高の教材となるだろう。

このソースコードは、GitHubで公開されており、誰でも自由に閲覧し、研究することができる。学習を進めるにあたっては、まずコンピュータが起動した際の初期化処理が書かれた部分から読み始め、次に入力された命令を解釈する部分、そして浮動小数点数演算のような具体的な処理へと進んでいくのが良いだろう。このコードを読み解くことで、単純なBASICプログラムがコンピュータ内部でどのように実行されていくのかを追体験できる。さらに、現代の6502エミュレータ上でこのインタプリタを動かしてみたり、新しいBASICの命令を追加する改造に挑戦したりすることも、実践的な学習として非常に有益である。

今回のマイクロソフトによる歴史的コードの公開は、現代の豊かなコンピューティング環境がいかに多くの先人たちの創意工夫の上に成り立っているかを改めて示している。それは単なる過去の遺産ではなく、計算資源の本質的な価値と、制約の中でこそ生まれる技術的な洗練を教えてくれる、時代を超えた教科書なのである。

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