【ITニュース解説】Eliminating Lost Update Anomalies in Spring Boot with Redlock and Custom AOP
2025年09月17日に「Dev.to」が公開したITニュース「Eliminating Lost Update Anomalies in Spring Boot with Redlock and Custom AOP」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
Spring Bootで分散ロックのRedlockを使う際、ロック解除がDBコミットより早いと、「Lost Update」というデータ上書きの問題が発生する。解決策は、AOPを使い、ロック解除をDBコミット後に同期させることで、データの整合性を保つ。
ITニュース解説
分散システムにおいてデータの一貫性を維持することは、システムエンジニアが直面する大きな課題の一つである。特に、多くのユーザーが同時にサービスを利用し、複数の処理が並行して実行されるようなシステムでは、意図しないデータの不整合が発生する可能性がある。その典型的な例が「ロストアップデート」と呼ばれる現象だ。これは、複数の処理が同じデータを更新しようとした際に、ある処理による更新が、別の処理による更新によって上書きされてしまい、結果としてデータが失われるという問題である。
このロストアップデートを防ぐため、データベースは「トランザクション」という仕組みを提供し、一連の処理を一つのまとまりとして扱い、その全体が成功するか、あるいは全体が失敗するかのいずれかを保証する。しかし、システムが複数のサーバーやサービスにまたがる「分散システム」の場合、データベースのトランザクションだけではデータの衝突を完全に防ぎきれないことがある。そこで、「分散ロック」という技術が登場する。分散ロックは、複数のサーバーやプロセスが共有リソースにアクセスする際に、一度に一つだけがアクセスできるように制御することで、データの衝突を防ぐ役割を果たす。Redis上に実装される「Redlock」は、分散環境における耐障害性(一部が故障しても全体が機能し続ける能力)と公平性(全ての要求が均等に処理されること)を提供する、広く使われている分散ロックのアルゴリズムだ。
Redlockのような強力な分散ロックを使っていたとしても、ロストアップデートが予期せず発生することがある。最近、Spring Bootアプリケーションで実際に発生した問題は、まさにRedlockがロストアップデートの原因となった事例だった。そのシステムは、高い並行処理能力を持つように設計されており、Redlockを使って共有データへのアクセスを一度に一つのスレッド(処理の単位)に制限していた。これによってデータの衝突は防げるはずだった。
しかし、システムに負荷がかかると、奇妙な現象が発生した。まず「スレッドA」がRedlockを取得し、データベースのデータを更新する。ここまでは正常な動作である。問題は、スレッドAによるデータベースの更新処理が完了し、それがデータベースに永続的に保存される(「コミット」と呼ばれる操作)前に、Redlockが解放されてしまった点にある。ロックが解放されたため、次に「スレッドB」がロックを取得し、データベースからデータを読み込むことが可能になる。このとき、スレッドBが読み込むデータは、まだスレッドAの更新が完全にコミットされていない古い状態のデータである。スレッドBはその古いデータに基づいて自身の更新を適用する。その後、遅れてスレッドAのトランザクションが最終的にコミットされると、スレッドBが行ったはずの更新が、スレッドAのコミットによって上書きされ、消えてしまう。これが「ロストアップデート」だ。
この問題の核心は、Redlockのロック解放タイミングとデータベーストランザクションのコミットタイミングが同期していなかったことにある。Spring Bootアプリケーションでは、通常、@Transactionalというアノテーションを使ってデータベーストランザクションを管理する。このトランザクションは、アノテーションが付与されたメソッドの実行が終了した後にコミットされるのが一般的だ。一方、Redlockのような外部の分散ロックを実装する場合、多くは対象メソッドの本体が完了した時点でロックを解除するように作られる。この、データベースのコミットが完了するまでのわずかな時間差が、他のスレッドが割り込んでしまい、整合性のない書き込みを引き起こす窓口となるのだ。つまり、分散ロックとデータベースのトランザクションの境界が適切に連携していなかったことが、このロストアップデート問題の根本原因だった。
このロストアップデートを解決するために考案されたのが、「カスタムAOP(アスペクト指向プログラミング)」と「トランザクション同期」を組み合わせる方法だ。AOPは、ログ出力、セキュリティチェック、トランザクション管理など、ビジネスロジックとは直接関係ないものの、多くの処理に共通して適用される横断的な関心事を、ビジネスロジックから分離して実装するためのプログラミング手法である。この問題解決においては、ロックの取得と解放という横断的な処理をAOPを使って実装する。
基本的な考え方はシンプルだ。まず、重要な処理を実行する前にRedisロックを確実に取得する。そして、このロックの解除タイミングを、データベーストランザクションが実際にコミットされるフェーズに合わせるのだ。つまり、トランザクションが完全にコミットされた後でなければ、ロックは解除しないようにする。
Springフレームワークには、TransactionSynchronizationManagerという機能があり、これを利用することで、トランザクションの様々なイベント(開始、コミット前、コミット後、ロールバック後など)に対して任意の処理を登録できる。この機能を使って、ロック解除の処理を「トランザクションが完了した後(afterCompletionイベント)」に実行されるように登録するのだ。
具体的な流れは次のようになる。AOPの機能(例えば@Aroundアノテーション)を使って、ロックが必要なメソッドの実行をラップする。メソッドが実行される直前にRedisロックを取得する。次に、TransactionSynchronizationManager.registerSynchronizationメソッドを使って、トランザクションがコミットされた後にロックを解除するためのコールバック処理を登録する。この登録が行われた後で、本来のビジネスロジック(データベース更新など)を含むメソッド本体が実行される。もしビジネスロジックの実行中に例外が発生した場合は、確実にロックを解除するようにもう一度処理を記述しておくことで、ロックが永遠に解放されないというデッドロック状態を防ぐことができる。
このアプローチを採用することには、いくつかの大きなメリットがある。第一に、ロックのライフサイクルがデータベースのコミットライフサイクルと直接結びつくため、ロストアップデートが確実に排除される。システムは常にコミットされ、整合性の取れたデータに基づいて動作するようになり、システムの信頼性が大幅に向上する。第二に、AOPを用いることで、ロックの取得や解除といった共通的な処理が個々のビジネスロジックの中に散らばることなく、コードが整理された状態を保てる。これはコードの可読性や保守性の向上に直結する。さらに、この方法はRedisロックだけでなく、他の種類の分散ロックや異なるトランザクション管理戦略にも応用できるため、非常に拡張性が高い。
この経験は、いくつかの重要な教訓を示している。分散ロックはそれ単独では完璧な解決策ではなく、データベースが「作業が完了した」とみなすタイミングと、密接に連携していなければならないということだ。高並行処理が求められるシステムでは、Redisのような外部ツールが提供する保証と、Springトランザクションのような内部的な保証との間の、わずかな時間差に微妙な競合状態が潜んでいることがある。そして、AOPとトランザクション同期の組み合わせは、ビジネスロジックを煩雑にすることなく、データの一貫性を強力に強制するための非常に効果的な手段であることが分かった。
結論として、分散システムではシステムの正確性とパフォーマンスの両方が求められる。Redlockのようなツールは強力な基本機能を提供するが、アプリケーションのワークフローに慎重に組み込む必要がある。Redisロックとデータベーストランザクションのコミットタイミングを同期させることで、ロストアップデートのようなデータの不整合を防ぎ、信頼性と拡張性を両立したシステムを構築できる。Spring BootとRedisを使ってシステムを開発しているエンジニアには、自身のロックがトランザクション境界とどのように相互作用しているかを深く検証してみることを強くお勧めする。それは、本番環境で発生する可能性のある、見つけにくいバグからシステムを救うことにつながるだろう。