LoRa(ローラ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
LoRa(ローラ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
ローラ (ローラ)
英語表記
LoRa (ローラ)
用語解説
LoRaとは、長距離・低消費電力を特徴とする無線通信技術の一種である。LPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれる通信規格のカテゴリに属しており、特にIoT(Internet of Things)分野で広く利用されている。この技術は、少ない電力で数キロメートルから十数キロメートルといった広範囲の通信を実現するために設計された。そのため、電源の確保が難しい屋外や広大な敷地に設置されたセンサーデバイスからのデータ収集に適している。具体的な用途としては、農地の土壌センサー、ダムや橋梁などのインフラ監視、水道やガスのスマートメーター、物流における資産追跡などが挙げられる。LoRaという言葉は、本来、物理層で用いられる独自の変調方式を指す名称である。実際のシステムでは、このLoRaの上にLoRaWANというネットワークプロトコルを組み合わせて利用されるのが一般的であり、これら二つはセットで理解することが重要である。
LoRaの技術的な核心は、チャープスペクトラム拡散(CSS)と呼ばれる変調方式にある。これは、信号の周波数を時間とともに直線的に変化させる「チャープ信号」を用いてデータを送信する技術である。この方式により、非常に低い信号電力でもノイズや他の電波からの干渉に強くなり、通信エラーの発生を抑えながら長距離伝送が可能となる。使用する周波数帯は、免許不要で利用できるISMバンドであり、日本では920MHz帯が割り当てられている。このため、携帯電話網のように通信事業者に高額なライセンス料を支払う必要がなく、比較的低コストでネットワークを構築できる利点がある。一方で、LoRaの通信速度は数kbps程度と非常に低速である。これは長距離通信と低消費電力を実現するためのトレードオフであり、画像や音声のような大容量データの送信には向いていない。LoRaでは、拡散率(Spreading Factor, SF)というパラメータを設定することで、通信距離と通信速度のバランスを調整できる。SFの値を大きくすると、信号がより広い周波数帯に拡散され、ノイズ耐性が向上して通信距離は伸びるが、その分データ送信にかかる時間が長くなり、通信速度は低下する。逆にSFを小さくすると、通信速度は向上するが通信距離は短くなる。この特性を利用して、設置環境や要件に応じて最適な通信設定を選択することが可能である。
LoRaが物理層の技術であるのに対し、LoRaWANはその上位層にあたるMAC層やネットワーク層を規定するオープンな通信プロトコルである。LoRaWANによって、多数のデバイスを収容する大規模なネットワークを効率的に管理・運用することができる。LoRaWANのネットワークは、主に四つの要素で構成される。一つ目は、センサーなどが搭載された「エンドデバイス」。二つ目は、エンドデバイスからのLoRa無線信号を受信し、インターネットなどのIPネットワークに中継する「ゲートウェイ」。三つ目は、複数のゲートウェイを管理し、デバイスの認証やデータの重複排除、適切なサーバーへの振り分けなどを行う「ネットワークサーバー」。そして四つ目が、デバイスから送られてきたデータを実際に処理・活用するための「アプリケーションサーバー」である。このスター型のネットワーク構成により、エンドデバイスは最も近いゲートウェイと通信するだけでよいため、消費電力を最小限に抑えることができる。また、LoRaWANでは、デバイスの用途に応じて三つの通信クラスが定義されている。Class Aは最も低消費電力なモードで、デバイスからのデータ送信直後にのみサーバーからの通信を受け付ける。Class Bは、定期的に受信タイミングを設けることで、Class Aよりはリアルタイム性を高めたモードである。Class Cは、常に受信待機状態となり、いつでもサーバーから通信できるが、消費電力は最も大きくなる。セキュリティに関しても、LoRaWANは標準でAES-128による暗号化を二段階で実装しており、ネットワーク層とアプリケーション層でそれぞれ異なる鍵を用いることで、通信の盗聴や改ざんを防ぎ、安全なデータ転送を実現している。
LoRa技術の最大のメリットは、前述の通り、低消費電力で長距離通信が可能な点にある。これにより、コイン電池一つで数年間にわたり稼働するデバイスを実現できる。また、免許不要帯域を利用するため導入コストを抑えられ、920MHz帯の電波は障害物にも強く、建物内や山間部などにも届きやすい特性を持つ。一方でデメリットも存在する。最も大きな制約は通信速度の遅さであり、センサーデータのような少量の情報伝達に用途が限定される。また、自営網として利用する場合、ゲートウェイの設置やネットワークサーバーの構築を自前で行う必要がある。ISMバンドは誰でも自由に使える反面、他の無線システムとの電波干渉が発生する可能性も考慮しなければならない。さらに、LoRaWANは主にエンドデバイスからサーバーへのアップリンク通信を主体に設計されているため、サーバーからデバイスへのダウンリンク通信には送信回数などの制約がある。
LoRaおよびLoRaWANは、IoTの普及を支える重要な無線通信技術であり、「少量のデータを、省電力で、広範囲に」という特定のニーズに特化して開発された。システムエンジニアを目指す上で、この技術がどのような特性を持ち、どのような用途に適しているかを理解することは、多様なIoTソリューションを設計・構築する際の有力な選択肢を知ることにつながる。高速通信が求められる場面には不向きであるが、その制約を理解した上で活用すれば、これまで実現が難しかった分野での新たな価値創造に貢献できる可能性を秘めている。