【ITニュース解説】Designing for Common Ground (instead of Accessibility Compliance)
2025年09月08日に「Dev.to」が公開したITニュース「Designing for Common Ground (instead of Accessibility Compliance)」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
Webアクセシビリティは、法令基準を満たすだけでなく、多様な支援技術で確実に動作するデザインが重要。特殊フォントや過剰な装飾は避け、誰もが利用できる共通の土台を意識して設計することが求められる。(111文字)
ITニュース解説
Webサイトやアプリケーションを開発する際、誰もが情報にアクセスし、サービスを利用できるように配慮する「アクセシビリティ」は極めて重要な概念である。多くの開発現場では、WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)のような国際的なガイドラインが定める基準を満たすこと、つまり「コンプライアンス準拠」が目標とされがちだ。しかし、単にチェックリストを埋めるだけでは、全てのユーザーにとって本当に使いやすい製品を生み出すことはできない。本当に目指すべきは、多様なユーザーが利用する支援技術が確実に機能する「共通の基盤」を理解し、そのために設計することである。これは、最も基本的な機能を持つ支援技術でも問題なく利用できる「最小公分母」に焦点を当てるという考え方だ。
このアプローチは、特にテキストコンテンツの表現方法において重要となる。例えば、視覚に障害を持つ人々が利用するスクリーンリーダー(画面読み上げソフト)は、画面上のテキストを音声で読み上げる。このとき、デザイン性を高めるために使われる特殊なフォント、つまりコピー&ペーストで入力するような装飾文字は、Unicodeの特定の文字コードに割り当てられているため、スクリーンリーダーが正しく認識できず、意味不明な読み上げになったり、読み飛ばされたりする原因となる。同様に、絵文字の多用もアクセシビリティを損なう可能性がある。絵文字はそれぞれに「拍手する手」「パーティーポッパー」といった名前が割り当てられており、スクリーンリーダーはそれをそのまま読み上げる。文章の途中に絵文字が多すぎると、文章本来の意味が伝わりにくくなってしまう。また、取り消し線や太字、斜体といったHTMLによるスタイリングも注意が必要だ。これらの装飾は、スクリーンリーダーによっては無視されることがあり、強調したい意図が音声では伝わらない可能性がある。点字ディスプレイにおいても同様の問題が存在する。安価で普及している基本的な6点式点字ディスプレイでは、こうした特殊な書式を表現できない場合が多い。一部の高価な8点式ディスプレイは書式を表現できるが、全てのユーザーがそれを使用しているわけではない。したがって、開発者は最も広く使われている基本的な技術でも情報が欠落しないよう、シンプルで確実な表現を優先するべきである。完璧を目指すあまり複雑な対応をするのではなく、大多数のユーザーが確実に利用できる設計を心がけることが現実的な解決策となる。
視覚的なデザイン、特に配色においても「共通の基盤」の考え方は適用される。Webサイトの背景色と文字色のコントラストが低いと、弱視の人や特定の色の組み合わせを識別しにくい色覚特性を持つ人にとって、テキストが非常に読みにくくなる。これは企業のブランドイメージを規定するコーポレート・アイデンティティ(CI)と対立する課題としてしばしば挙げられる。しかし、多くの場合、ブランドイメージを根本から覆す必要はない。ブランドカラーをほんのわずかに暗くしたり、明るくしたりするだけで、WCAGが定めるコントラスト比の最低基準を満たせることは少なくない。もちろん、白地に黄色といった、どう調整しても十分なコントラストを確保できない組み合わせをブランドカラーに採用している場合は、抜本的な変更が求められる。重要なのは、WCAGなどのガイドラインが示すコントラスト比の基準は、あくまで「最低限」のラインであると認識することだ。基準値をわずかに超えたからといって、それが最適とは限らない。数値をクリアすることだけを目標にするのではなく、より多くの人が快適に情報を認識できるかどうかという本質的な視点を持つことが求められる。
最終的に、アクセシビリティは「インクルーシブデザイン(包括的なデザイン)」という考え方に繋がる。この言葉は、特別な取り組みを指すのではなく、デザインという行為そのものに本来備わっているべき基本姿勢を示すものである。製品やサービスから特定のユーザーが排除されてしまう状況は、意図的な設計でない限り、単なる配慮不足の結果である。アクセシビリティが確保されていない状態を「仕方がない」と放置するのは、ユーザーに対する誠実な態度とは言えない。初めから全ての人が利用できることを前提として設計プロセスを進めることが、これからのシステム開発において不可欠な責務である。形式的な基準準拠に留まらず、多様なユーザーがどのような技術を使い、どのような状況で困難に直面するのかを理解し、最もシンプルで確実な「共通の基盤」のために設計することこそが、真にアクセシブルな社会を実現するための第一歩となる。