【ITニュース解説】TVL Trend Analysis & Liquidity Risk Assessment: Gemini
2026年10月02日に「Dev.to」が公開したITニュース「TVL Trend Analysis & Liquidity Risk Assessment: Gemini」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
仮想通貨金融サービスGeminiは56.4億ドルの預かり資産を持つが、異なるブロックチェーンをつなぐ仕組みや、価格データ提供源が一つに偏っている。預かり資産の一部集中や、短期大口融資による不正操作のリスクがあり、複数の情報源の導入やセキュリティ強化が必要とされている。
ITニュース解説
Geminiという大規模な分散型金融(DeFi)プラットフォームの預かり資産総額(TVL)に関する分析と、それに伴う流動性リスクの評価が行われた。Geminiは、ユーザーが仮想通貨を預けて利息を得たり、借り入れたり、異なる仮想通貨を交換したりできるサービスを提供している。特に、イーサリアムという基盤のネットワークだけでなく、OptimismやArbitrum、zkSyncといった「レイヤー2(L2)」と呼ばれる技術も活用し、取引の処理速度を上げたり、手数料を抑えたりしている点が特徴である。現在、Geminiには総額56.4億ドルもの仮想通貨が預けられており、そのうち約39億ドルがイーサリアム上に、17億ドルがL2上に存在する。この預かり資産は、「Gemini Yield Vaults」という新しいサービスがL2上で開始されたことを主な要因として、過去1年間で約38%も増加した。預けられている資産の種類を見ると、価値が安定しているとされる「ステーブルコイン」(USDC、USDT、DAIなど)が全体の71%を占め、イーサリアムをラップしたWETHやその他の価格変動の大きい資産が22%、そしてGeminiの運営に関わる投票権を持つ「ガバナンストークン」であるGEMをステーキングしたものが7%となっている。このような大規模なプラットフォームにおいて、どのようなリスクがあるのか、そしてそれをどう評価し、対策すべきかが今回の分析の主な目的である。
今回の分析ではいくつかの重要なリスクが指摘された。まず一つ目は「流動性集中リスク」である。これは、Geminiに仮想通貨を預けている大口のユーザー(流動性提供者、LP)のうち、ごく一部のトップ5のユーザーが、全体の預かり資産の約30%もの流動性をコントロールしているという問題だ。もしこれらの大口LPが同時に資金を引き出したり、何らかの理由で強制的に資金が引き出されたりした場合、Geminiの預かり資産が急激に減少する可能性がある。これにより、他のユーザーの資産も連鎖的に清算される事態に陥り、プラットフォームへの信頼が失われる恐れがある。
二つ目のリスクは「クロスチェーンブリッジへの単一依存」である。L2上に預けられた資産とイーサリアム上の資産を行き来させるためには、「ブリッジ」と呼ばれる仕組みが使われる。Geminiの場合、L2とイーサリアム間の資産移動に「Orbital Bridge」という特定の第三者ブリッジのみに依存している点が問題である。もしこのOrbital Bridgeに何らかの不具合やセキュリティ上の脆弱性があり、攻撃者に悪用された場合、L2に預けられている全体の40%にも及ぶ資産がロックされたり、盗まれたりする可能性がある。これは、システム全体にとっての「単一障害点」、つまりそこが壊れると全てが機能しなくなる場所が存在するということだ。過去には、WormholeやPolyNetworkといった他のブリッジで実際にこのような大規模な被害が発生している事例もあるため、特に警戒すべき点である。
三つ目のリスクは「オラクルへの単一依存」だ。DeFiプラットフォームでは、外部の市場価格情報を取得するために「オラクル」と呼ばれる仕組みが使われる。例えば、仮想通貨の価格変動に応じて担保を清算するかどうかを判断する際などに、このオラクルが提供する価格情報が使われる。Geminiでは、GEMトークンやL2上の資産の価格情報が「Chainlink」という単一のオラクルサービスに依存しており、代替のサービスが存在しない。もし攻撃者がChainlinkの価格情報を操作することに成功した場合、誤った価格に基づいて清算が行われたり、後述するフラッシュローンを悪用して利益を得たりする可能性がある。たとえば、価格操作によってGEMの価格が一時的に不正に釣り上げられたとすると、それを信用したシステムは、実際よりも高い価値でGEMを扱ってしまうことになる。
四つ目のリスクは、「Instant-Swap」モジュールにおける「フラッシュローン攻撃」の可能性だ。「フラッシュローン」とは、担保なしで非常に短時間(同一の取引ブロック内)で巨額の仮想通貨を借り入れ、利用し、返済する、という特殊な貸し出し方法である。GeminiのInstant-Swapモジュールは、担保なしでTVLの0.5%までのスワップを1ブロック内で行うことを許可している。攻撃者はこれを利用して、外部のプロトコルから大量の仮想通貨をフラッシュローンで借り入れ、その資金で市場の流動性が低い仮想通貨(例えばGEM)の価格を一時的に操作し、GeminiのInstant-Swapを使って操作された価格で取引を行うことで利益を抜き取り、借りた資金を返済するという一連の操作を1ブロック内で完結させる可能性がある。これにより、Geminiから不正に資金が引き出される恐れがある。
他にもいくつかのリスクが挙げられている。ガバナンスの乗っ取りは、GEMトークンの大部分を借り入れるなどして投票権を一時的に確保した悪意のある提案者が、プラットフォームの重要な設定(例えば、担保率やフラッシュローンの上限)を自分に有利なように変更し、結果的に流動性を引き出す可能性があるというものだ。また、一部のL2では「シーケンサー」と呼ばれる取引処理役が単一であるため、もしシーケンサーが悪意を持って取引を遅らせたり、順番を入れ替えたりした場合、ユーザーが資産を引き出せなくなる「スタック」状態に陥るリスクも指摘されている。さらに、新しく導入された「Yield Vault」というサービスはまだ外部の正式な監査を受けていないため、そのスマートコントラクトに潜在的なバグが存在し、報酬の不正な分配や資金流出につながる可能性もある。
これらのリスクに対応するため、具体的な推奨事項が提案された。最も優先度が高いのは、オラクルとブリッジの単一障害点問題を解決することだ。オラクルについては、Chainlinkだけでなく、Band Protocolのような複数の異なる価格情報源を組み合わせ、もし一つの情報源に異常があった場合に備えて、複数の情報源の中央値を採用するような「フォールバック」機能を導入すべきとされている。ブリッジについても、Orbital Bridgeだけでなく、Hop Protocolのような別のブリッジも利用できるように冗長化し、さらに緊急時にはDAO(分散型自律組織)の投票によってブリッジを一時停止できる機能を設けるべきだ。
次に優先度が高いのは、フラッシュローンの悪用を防ぐ対策と、流動性提供者の多様化である。フラッシュローンに関しては、現在の固定された上限(TVLの0.5%)を、過去24時間のTVLの移動平均などに基づいた動的な上限(例えば0.2%)に変更し、さらに同じアドレスからの短時間での連続した利用を制限する「レートリミット」を導入すべきだとされている。流動性集中リスクを軽減するためには、預かり資産が少ない流動性提供者に対して、より多くの報酬を与えるインセンティブを導入し、多様なユーザーが参加するように促すことが推奨される。
ガバナンスの安全性を高めるためには、重要なパラメータ変更には最低7日間のタイムロック(変更が実際に反映されるまでの猶予期間)を設け、また重要な提案を可決するためには、GEMトークンの総供給量の15%以上という高い参加投票数(クォーラム)を義務付けるべきである。新規のYield Vaultコントラクトについては、形式的検証(プログラムの挙動を数学的に厳密に証明する手法)を実施し、潜在的なバグを早期に発見して公に報告することが求められる。L2シーケンサーの問題に対しては、DAOの投票によって「出金のみ」のモードを有効化し、シーケンサーが停止した場合でもユーザーが資産を引き出せるようにする対策や、複数のシーケンサーをサポートするL2(例: StarkNet)への統合も検討すべきだ。
これらの対策に加えて、TVLの異常な変動をリアルタイムで監視し、急激な資金流出があった場合にはすぐにアラートを発するシステムを構築することも重要である。
今回のリスク評価では、スマートコントラクトのコード品質自体は高く評価されているものの、オラクル、ブリッジ、流動性集中、ガバナンスといったシステムの運用や外部連携に関わる部分のリスクが高く、全体のリスク評価は10点中7点(高〜中)とされた。GeminiはDeFi分野で成功を収めているが、その規模と複雑さゆえに、単一のブリッジやオラクルへの依存、流動性集中といったシステム全体のリスクが無視できないレベルにある。前述の優先度の高い推奨事項を速やかに実施することで、大規模な流動性イベントが発生する可能性を大幅に減らし、プラットフォームの安全性を高めることができると結論付けられている。これは、システム全体を設計し、運用する上で、コードの品質だけでなく、その周辺環境や外部との連携、そして非常事態への対応策まで包括的に考えることの重要性を示している。