VPNパススルー(ブイピーエヌパススルー)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
VPNパススルー(ブイピーエヌパススルー)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
VPNパススルー (ブイピーエヌパススルー)
英語表記
VPN Passthrough (ブイピーエヌ パススルー)
用語解説
VPNパススルーは、ネットワークの境界に設置されたルーターが、その背後にあるクライアントが確立しようとするVPN(Virtual Private Network)接続を適切に処理し、透過させるための機能である。この機能は、特にインターネットゲートウェイとして機能するNAT(Network Address Translation)対応ルーター環境下において、外部のVPNサーバーへの接続を可能にするために不可欠となる。
一般的に、VPNはインターネットのような共有ネットワークを介して、安全なプライベートネットワークへの接続を確立する技術である。データを暗号化し、カプセル化することで、あたかも専用線でつながっているかのような仮想的なトンネルを形成し、盗聴や改ざんから通信を保護する。しかし、このVPN接続が、ルーターに実装されているNAT機能と衝突することがある。
NATは、プライベートIPアドレスを持つ複数のデバイスが、単一のグローバルIPアドレスを共有してインターネットに接続できるようにする技術である。これにより、IPアドレスの枯渇問題を緩和し、内部ネットワークのセキュリティを高める効果がある。NATルーターは、内部ネットワークから外部への通信を中継する際に、送信元IPアドレスとポート番号を書き換え、外部からの応答パケットを適切な内部デバイスにルーティングする。
VPNプロトコル、例えばPPTP(Point-to-Point Tunnelling Protocol)やIPsec(Internet Protocol Security)は、その性質上、通常のTCP/UDP通信とは異なる方法でパケットを構築する。PPTPはGRE(Generic Routing Encapsulation)プロトコルを使用し、IPsecはESP(Encapsulating Security Payload)プロトコルやAH(Authentication Header)プロトコルを用いてデータをカプセル化する。これらのプロトコルは、NATが期待するTCP/UDPポート情報だけでなく、IPヘッダ内のプロトコルタイプ情報やペイロード内のアドレス情報にも依存することがあるため、NATルーターがアドレス変換を行う際に、これらの情報が書き換えられたり、適切に認識されなかったりすると、VPNトンネルの確立が妨げられてしまう。具体的には、NATルーターがVPNパケットを単なる不明なデータと判断し、破棄してしまう事態が発生しうる。
VPNパススルー機能は、このような問題を解決するために開発された。ルーターが特定のVPNプロトコルが使用するパケットを識別し、そのプロトコル特有の挙動に合わせてNAT処理を調整したり、必要なポートを動的に開放したりする役割を担う。これにより、VPNクライアントからの送信パケットが正しく変換され、また外部のVPNサーバーからの応答パケットがVPNクライアントに正しく転送されるようになる。
主要なVPNプロトコルに対するパススルー機能は以下の通りである。
PPTPパススルー: PPTPはTCPポート1723とGREプロトコル(IPプロトコル番号47)を使用する。NATルーターは、GREパケットを適切に処理するために、GREヘッダ内のコールIDを変換したり、関連するTCPセッションとGREセッションを紐付けたりする必要がある。PPTPパススルーはこの処理を可能にする。
IPsecパススルー: IPsecは、鍵交換のためのIKE(Internet Key Exchange)がUDPポート500を、暗号化されたデータ転送のためのESPがIPプロトコル番号50、認証のためのAHがIPプロトコル番号51を使用する。IPsecはさらに、NAT環境下での動作を助けるNATトラバーサル(NAT-T)という仕組みをサポートしており、これによりIKEはUDPポート4500も使用するようになる。IPsecパススルーは、これらのUDPポートとIPプロトコル番号のパケットを正しく処理し、ESP/AHパケット内のセキュリティ関連識別子(SPI)などを適切に変換または透過させることで、NATを超えたIPsecトンネルの確立を可能にする。
L2TPパススルー: L2TP(Layer 2 Tunnelling Protocol)自体はUDPポート1701を使用するが、多くの場合、L2TP/IPsecとしてIPsecと組み合わせて使用される。そのため、L2TPパススルーは実質的にIPsecパススルーと密接に関連しており、IPsecの機能と連携してL2TPトンネルを確立・維持する。
多くの家庭用・小規模オフィス用ルーターでは、デフォルトでVPNパススルー機能が有効になっている場合が多いが、ルーターの設定画面でPPTPパススルー、IPsecパススルーといった項目を確認し、必要に応じて手動で有効にする必要がある場合もある。この機能が正しく設定されていない場合、ルーターの背後にあるPCやスマートフォンから、企業や大学のVPNサーバーへの接続ができない、あるいは接続できてもすぐに切断されるといった問題が発生する。
VPNパススルーは、自宅や外出先のカフェなど、NAT環境下にあるローカルネットワークから、セキュアなVPN接続を通じて遠隔地のネットワークリソースにアクセスする際に、その通信を滞りなく行うための土台となる重要な機能である。ルーターがVPNトラフィックを「パススルー(通過)」させることで、VPNクライアントとVPNサーバー間のエンドツーエンドのセキュアな通信が実現される。この機能自体がセキュリティ上のリスクを直接的に増大させるものではなく、むしろVPN本来のセキュリティメカニズムを機能させるために必要不可欠な透過性を提供するものである。そのため、外部のVPNサービスや企業内VPNを利用する際には、ルーターのVPNパススルー設定を確認することが推奨される。