【ITニュース解説】The state of `fq_codel` and `sch_cake` worldwide [2022]

2025年09月06日に「Reddit /r/programming」が公開したITニュース「The state of `fq_codel` and `sch_cake` worldwide [2022]」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

ネットワークのデータ混雑を緩和し、通信遅延を減らす技術`fq_codel`と`sch_cake`について、2022年時点の全世界における適用状況や評価がまとめられている。安定したネットワーク構築に不可欠な技術の現状を解説する。

ITニュース解説

現代のインターネット利用において、ネットワークの遅延や速度低下は誰もが経験する問題の一つだろう。特に、複数のデバイスが同時にネットワークを利用したり、高負荷なアプリケーション(オンラインゲーム、ビデオ会議など)を使ったりする際に、その影響は顕著に現れる。このような問題の背景には、様々な要因があるが、その一つに「バッファブロート」と呼ばれる現象がある。

バッファブロートとは、ネットワーク機器(ルーター、モデムなど)に搭載されているデータの一時的な保管場所であるバッファが大きすぎることによって発生する問題だ。本来、バッファは一時的なトラフィックの急増に対応し、データの損失を防ぐために存在する。しかし、このバッファが過剰に大きいと、一時的にネットワークが混雑してもデータは破棄されずバッファに溜まり続ける。その結果、ユーザーはデータが実際に送受信されるまでの待ち時間、すなわち「遅延(レイテンシ)」が大幅に増大したように感じる。ウェブページの読み込みが遅くなったり、オンラインゲームで入力がワンテンポ遅れたり、ビデオ会議で音声が途切れたりするのは、このバッファブロートが原因である場合が多い。

このバッファブロート問題への効果的な対策として登場した技術が「fq_codel」である。fq_codelは「Fair Queuing Controlled-Delay」の略で、Linuxカーネルに実装されているネットワークのキューイング規律(QDisc)の一つだ。その名の通り、「公平なキューイング」と「遅延の制御」という二つの主要な目標を持つ。公平なキューイングとは、ネットワーク上を流れる複数のデータストリーム(例:ウェブ閲覧、動画ストリーミング、ゲーム)に対して、それぞれがネットワーク帯域を公平に利用できるように分配する仕組みを指す。これにより、特定のアプリケーションやユーザーが帯域を独占してしまうことを防ぐ。遅延の制御については、バッファにデータが溜まりすぎることを検知し、適切なタイミングで新しいデータの受信を一時的に制限したり、古いデータを破棄したりすることで、バッファの肥大化を防ぎ、結果的に遅延を最小限に抑える働きをする。fq_codelは、従来のキューイングメカニズムに比べて設定が比較的容易でありながら、大きな改善効果を発揮するため、特に家庭用のルーターや中小規模のネットワーク環境で注目を集めた。

fq_codelの成功を受けて、さらに進化したキューイング規律として登場したのが「sch_cake」である。sch_cakeは「Common Applications Kept Enhanced」の略で、fq_codelのコンセプトを基盤としつつ、より多くの高度な機能を統合し、設定の簡素化とパフォーマンスの向上を目指して開発された。cakeの最大の特徴は、公平なキューイング、遅延制御、アクティブキュー管理(AQM: Active Queue Management)、トラフィックシェーピングといった、これまで個別に設定する必要があった様々な機能を一つのモジュールとして提供している点にある。これにより、ユーザーは複雑な設定を行うことなく、ネットワーク全体のパフォーマンスを向上させることができるようになった。

具体的には、cakeは複数のデータフローをさらに細かく分類し、それぞれに適切な優先順位と帯域を割り当てる能力を持つ。例えば、オンラインゲームのようなリアルタイム性が求められるトラフィックには高い優先度を与え、ファイルダウンロードのような大容量だが時間的な制約の少ないトラフィックには低い優先度を与えることで、ネットワークリソースを効率的に利用する。また、家庭のインターネット回線は上り(アップロード)と下り(ダウンロード)で帯域が異なることが一般的だが、cakeはこれらの帯域差を考慮し、双方の方向で効果的なトラフィック管理を行うことができる。これにより、ユーザーは自身のインターネット回線の最大性能を損なうことなく、体感上のレスポンスを大幅に改善できるのだ。

これらの技術は、特にオープンソースのルーターファームウェアである「OpenWrt」などで広く採用され、多くの家庭用ルーターユーザーがその恩恵を受けている。OpenWrtを搭載したルーターでは、fq_codelやsch_cakeを有効にすることで、混雑時における遅延を劇的に減らし、オンラインゲームのラグを低減したり、ビデオ会議の安定性を向上させたりといった効果を実感できる。設定も比較的シンプルで、回線の最大帯域を正確に設定するだけで、多くの場合で最適なパフォーマンスが得られるように設計されている。

しかし、これらの技術の普及にはいくつかの課題も存在する。一つは、インターネットサービスプロバイダー(ISP)レベルでの導入が進んでいない点だ。ISPは膨大な数のユーザーを抱えており、大規模なネットワークインフラ全体にfq_codelやsch_cakeのような高度なQoS技術を導入するには、莫大なコストと複雑な設定、そして検証が必要となる。そのため、現状では末端のユーザーが自身のルーターでこれらの技術を導入するケースがほとんどだ。また、fq_codelやsch_cakeは、その処理のためにルーターのCPUリソースを使用する。特にsch_cakeは高度な処理を行うため、古いルーターや性能の低いルーターではCPUがボトルネックとなり、かえってネットワーク速度が低下する可能性もある。そのため、これらの技術を最大限に活用するには、ある程度のCPU性能を持つルーターが必要となる。

2022年時点でのfq_codelとsch_cakeの世界的な状況を見ると、これらは主に個人ユーザーや小規模ネットワークの管理者、そしてOpenWrtのようなコミュニティベースのプロジェクトによって積極的に活用されている技術であることがわかる。特に、リモートワークやオンライン学習の普及により、家庭内ネットワークの安定性と低遅延がこれまで以上に求められるようになった現代において、これらの技術は非常に価値あるソリューションを提供している。TCP/IPレベルで動作するGoogleのBBRのような輻輳制御アルゴリズムとの比較も行われることがあるが、fq_codelとsch_cakeは主にルーターレベルでのキューイングと帯域管理に焦点を当てており、それぞれ異なるレイヤーでネットワーク性能の向上に貢献する。

最終的に、fq_codelとsch_cakeは、現代のネットワークが抱える遅延と輻輳という根本的な問題に対し、高度かつ実用的な解決策を提供する重要な技術だ。システムエンジニアを目指す上では、ネットワークの基本的な仕組みだけでなく、このような具体的な最適化技術が存在し、それがユーザー体験にどのように影響するかを理解することは非常に重要である。これらの技術は、インターネットをより快適で応答性の高いものにするために、現在も進化を続けている。

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