【ITニュース解説】The blueprint for lasting companies and communities with Discord’s Jason Citron and Campuswire’s Tade Oyerinde at TechCrunch Disrupt 2025
2025年09月05日に「TechCrunch」が公開したITニュース「The blueprint for lasting companies and communities with Discord’s Jason Citron and Campuswire’s Tade Oyerinde at TechCrunch Disrupt 2025」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
TechCrunch Disrupt 2025で、Discord創業者らが「長く続く会社とコミュニティ」の構築法を語る。人を重視した設計が単なる製品開発を超え、大きな社会的な動き(ムーブメント)を生み出す秘訣だと解説する。
ITニュース解説
TechCrunch Disrupt 2025で開催された「Creating Communities and Companies That Last」(永続するコミュニティと企業を創造する)と題されたセッションは、システムエンジニア(SE)を目指す皆さんにとって、これからのプロダクト開発やサービス設計の考え方を示す非常に重要な内容だった。このセッションでは、人気の音声・テキストチャットツールDiscordの創業者であるジェイソン・シトロン氏と、大学向けコミュニケーションプラットフォームCampuswire(キャンパスワイヤー)の創業者であるタード・オイェリンデ氏が登壇し、長期にわたって人々に愛され、成長し続ける企業やコミュニティをどのように築き上げていくか、その「青写真」を示した。
このセッションの核心にあるのは、「制度(機関)のためではなく、人々のために設計する時、単なる製品ではなく、ムーブメントが生まれる」という考え方だ。これはSEの仕事において、非常に示唆に富む。私たちSEは、システムやアプリケーションを開発する際、機能要件や技術仕様に目が行きがちだが、その先にいる「使う人」を深く理解し、その人の課題を解決し、価値を提供することこそが最も重要だというメッセージである。
「制度のため」に設計するとは、企業組織の都合や既存の業務フローに合わせることを優先したり、単に市場のトレンドに乗って機能を追加したりするような開発を指す。これに対し、「人々のために」設計するとは、ユーザー一人ひとりのニーズ、感情、行動パターンを徹底的に探求し、彼らが本当に望む体験を創出することに焦点を当てることだ。システムを設計する際には、利用者がどのような状況で、どのような目的で、何を達成したいのかを深く考察する。その結果、単なる機能の集合体ではない、使う人の心に響くサービスが生まれる。
この思想が成功すると、製品は単なるツールに留まらず、「ムーブメント」となる。ムーブメントとは、多くの人々がその製品やサービスに共感し、自ら進んで参加し、支え、時には発展に貢献していくような社会的な動きを指す。Discordが良い例だろう。Discordはゲームプレイヤー向けのコミュニケーションツールとして始まったが、単にボイスチャットやテキストチャットができるだけでなく、ユーザー自身がサーバー(コミュニティ)を作り、ルールを設定し、管理することで、多様な趣味や目的を持つ人々が集まる「居場所」を提供した。ユーザーはただ利用するだけでなく、サーバーを育て、新しいメンバーを迎え入れ、共に活動することで、Discordというプラットフォーム全体の価値を高めてきた。これは、開発側が提供した機能だけでなく、ユーザーが自らその中で活動する「体験」を重視した結果、自発的な「ムーブメント」が生まれた典型例だ。
Campuswireも同様の哲学に基づいている。大学という「制度」の中で、学生と教員、学生同士のコミュニケーションには多くの課題が存在した。従来のLMS(学習管理システム)は機能的ではあったものの、必ずしも「人々」、つまり学生や教員が日々の学習や指導で求めるリアルタイム性や気軽な交流を実現していなかった。Campuswireは、学生が疑問をすぐに質問できたり、共同作業を効率的に行えたり、教員が学生の質問に一括で対応できたりと、実際の教育現場における「人々の困りごと」に寄り添い、シームレスなコミュニケーション体験を提供することで、学習効果の向上と教育現場の活性化という「ムーブメント」を生み出そうとしている。単なる機能提供ではなく、学生が学びを深め、教員がより効果的に指導できる「環境」を創り出している点が重要だ。
システムエンジニアを目指す皆さんにとって、この視点はこれからのキャリアを形成する上で不可欠になる。単に技術スキルを磨くだけでなく、その技術を使って「誰に、どのような価値を提供するのか」という問いを常に持ち続ける必要がある。プログラミング言語やフレームワークの選定、データベースの設計、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の開発といった具体的な作業も、最終的にユーザーがどのような体験を得るのかという視点から逆算して考えるべきだ。
例えば、ユーザーインターフェース(UI)やユーザーエクスペリエンス(UX)の設計において、人々の使いやすさ、理解しやすさ、快適さはSEの仕事と深く関連する。バックエンドの処理速度がユーザーの待ち時間を減らし、快適な体験を提供する。データベースの設計が、必要な情報へのアクセスをスムーズにし、ユーザーのストレスを軽減する。セキュリティ対策は、ユーザーの安心と信頼を築く上で不可欠だ。これら一つ一つの技術的な判断が、最終的には「人々のための設計」に繋がり、ムーブメントを生み出す土台となる。
永続する企業やコミュニティは、単に優れた技術を持っているだけでなく、その技術を通じて人々に真の価値を提供し、共感を呼び、成長を促す力を持っている。このセッションが示す青写真は、SEが単なる技術者としてではなく、人々の生活や社会にポジティブな影響を与える「創造者」としての役割を果たすための羅針盤となるだろう。これからのシステム開発は、技術と人間中心設計の融合によって、より深く、より広範な価値を創造し、持続可能な未来を築いていく方向に進む。常に「人」を中心に考え、その課題を解決し、より良い体験を提供すること。これが、SEとして永続的な価値を生み出すための最も重要な姿勢である。