【ITニュース解説】Nepal's Youth-Led Revolution: The Fall of a Corrupt Prime Minister and the Fight for a New Era

2025年9月、南アジアの国ネパールで、若者たちが中心となった抗議活動により、長年政権を担ってきた首相が辞任に追い込まれるという大きな政変が起きた。この出来事は、単なる政治ニュースではなく、ソーシャルメディア（SNS）やVPNといったIT技術が、社会を根底から揺るがす力を持つことを示した象徴的な事例である。システムエンジニアを目指す上で、テクノロジーが社会に与える影響を理解することは極めて重要だ。このネパールでの出来事を紐解き、ITが持つ力と課題について解説する。

事件の背景には、ネパール社会に深く根付いていた汚職と縁故主義（ネポティズム）がある。政治家の親族が能力に関係なく重要な役職に就き、公共事業の予算が不正に流用されることで、インフラ整備は滞り、国民の生活は向上しなかった。特に、約20%という高い失業率に直面する若者たちの不満は限界に達していた。この鬱積した感情に火をつけたのがSNSだった。「ネポ・キッズ」と名付けられたキャンペーンでは、国民が貧困に苦しむ一方で、政治家の子どもたちが高級車や海外旅行を楽しむ贅沢な暮らしぶりが次々と暴露された。これは、SNSが単なる交流の場ではなく、社会的な不満を可視化し、多くの人々の共感を集約させる強力なプラットフォームとして機能したことを示している。画像や動画を伴う情報は瞬く間に拡散し、これまで声にならなかった個々の不満を、一つの大きな社会運動へと変えるエネルギーとなった。

このSNS上の動きを脅威と見なしたネパール政府は、情報統制に乗り出した。X（旧Twitter）やFacebookなど主要なプラットフォームに対し、ネパール国内での再登録、現地オフィスの設置、そして政府当局によるユーザーデータへのアクセス許可を要求した。これは表向き「偽ニュース対策」とされたが、実質的には政府に批判的な言論を封じ込めるための措置であった。プラットフォーム側がプライバシーと表現の自由を理由に要求を拒否すると、政府は合計26ものSNSやメールサービスの国内からのアクセスを遮断する「デジタル・ブラックアウト」を強行した。この措置は、現代社会において情報インフラが人々の生活や権利にとっていかに重要であるかを浮き彫りにした。政府による一方的なアクセス遮断は、技術的にはインターネットサービスプロバイダ（ISP）に特定のサイトへの接続をブロックさせることで実現されるが、これは国民の知る権利を奪い、コミュニケーションを断絶させる行為に他ならない。

しかし、若者たちはこのデジタルな弾圧に屈しなかった。SNSという主要な武器を奪われた彼らが次なる手段として活用したのが、VPN（Virtual Private Network）である。VPNは、インターネット上に仮想的な専用線を構築して通信内容を暗号化する技術だ。これを利用することで、ユーザーはあたかも別の国からアクセスしているかのように見せかけることができ、政府によるアクセス制限を回避できる。ネパールの若者たちはVPNを使って外部のインターネットに接続し、国内の状況を世界に発信し続けた。また、デジタルな手段が制限されたことで、口コミやビラといったオフラインでの情報伝達網も再評価され、オンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッドな抗議活動が展開された。これは、一つの技術が封じられても、別の技術や手段を駆使して目的を達成しようとする、デジタルネイティブ世代の柔軟性と技術リテラシーの高さを示すものだった。

政府による弾圧は、デモ参加者への実弾発砲という悲劇的な事態にまでエスカレートしたが、その暴力的な様子もまた、規制をかいくぐって撮影された映像として世界に拡散された。「#NepalProtests」といったハッシュタグを付けられた投稿は、SNSのアルゴリズムによって世界中のユーザーに届けられ、国際的な非難の声を高めることに貢献した。リアルタイムで共有される現地の映像や情報は、遠い国の出来事を人々の身近な問題として感じさせ、連帯を生み出す力を持っていた。この世界的な圧力と、国内で収拾がつかなくなった抗議活動の激化により、ついに首相は辞任を表明し、SNSの利用制限も解除された。テクノロジーが国境を越えて世論を形成し、一国の政治体制を覆すに至ったのである。

ネパールで起きた一連の出来事は、システムやサービスを開発・運用するエンジニアにとって多くの示唆を与えてくれる。我々が日常的に利用するSNSプラットフォーム、それを支える通信インフラ、そしてユーザーのプライバシーを守るセキュリティ技術は、人々の表現の自由や政治参加の権利と密接に結びついている。政府によるデータ提出要求やアクセス遮断は、プラットフォーム事業者やインフラ管理者にとって、技術的な課題であると同時に、倫理的・政治的な判断を迫られる問題でもある。自らが作るシステムが、意図せずして情報統制の道具として使われる可能性もあれば、今回のように人々が自由を求めて戦うための武器になる可能性もある。テクノロジーは中立ではなく、社会の中で特定の価値観を増幅させ、現実世界に大きな影響を及ぼす。システムエンジニアを目指す者は、コードを書くスキルだけでなく、自らの技術が社会にどのようなインパクトを与えるのかを常に意識し、責任ある開発者としての視点を持つことが不可欠である。このネパールの事例は、その重要性を改めて教えてくれる生きた教材と言えるだろう。