PSTNマイグレーション(ピーエスティーエヌマイグレーション)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
PSTNマイグレーション(ピーエスティーエヌマイグレーション)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
公衆交換電話網移行 (コウシュウコウカンデンワモウイコウ)
英語表記
PSTN Migration (ピーエスティーエヌ マイグレーション)
用語解説
PSTNマイグレーションとは、企業や組織が利用している既存の電話網であるPSTN(Public Switched Telephone Network:公衆交換電話網)から、インターネットプロトコル(IP)技術を基盤とした新しい通信システムへ移行することを指す。PSTNは、電話機同士を物理的な回線で直接接続し、交換機を介して通話を行う仕組みであり、長年にわたり主要な音声通信インフラとして機能してきた。しかし、その多くがアナログ技術や旧来のデジタル技術に基づいて構築されており、設備の老朽化、維持管理コストの増大、新たなデジタルサービスとの連携の困難さといった課題を抱えている。
このため、より柔軟で高機能、かつコスト効率の良いIPベースの通信システムへの移行が、通信業界全体や企業における喫緊の課題となっている。特に日本では、通信事業者が2020年代後半に向けてPSTN(具体的にはISDNを含む)のサービス提供終了を計画していることが、PSTNマイグレーションを加速させる大きな要因となっている。この移行は、単に電話回線を置き換えるだけでなく、企業のコミュニケーションインフラ全体を最新化し、ビジネスプロセスの変革を促す重要な取り組みと位置づけられる。
PSTNは、電話回線網と交換機によって構成される音声通信のためのインフラであり、世界中で長きにわたり利用されてきた。その特徴は、通話開始から終了まで特定の回線を占有する「回線交換方式」を採用している点にある。これにより、安定した音声品質が保証される一方で、同時に通話可能な回線数に物理的な制約があり、回線の使用状況に応じて課金されるのが一般的である。日本では、ダイヤルアップ接続やFAXなどに使われたアナログ回線と、デジタル化された「ISDN(Integrated Services Digital Network)」が含まれる。ISDNはPSTN網内でデジタル信号を伝送するサービスであり、複数のチャネルを同時に利用できる利点があったが、これも広義のPSTNの一部として、サービス終了の対象となっている。
PSTNの抱える最大の課題は、設備の老朽化とそれに伴う維持管理コストの増大である。多くの交換機や回線設備は数十年前から運用されており、専門知識を持つ技術者の減少や、部品の調達が困難になるなど、安定的な運用を続けることが難しくなっている。また、IPネットワークが提供する高速かつ多機能なサービスと比較して、機能拡張の自由度が低く、Web会議システムやチャットツールなど、現代のビジネスで不可欠な多様なコミュニケーションツールとの連携が難しい点もデメリットとなる。
PSTNマイグレーションの移行先となるのは、VoIP(Voice over Internet Protocol)技術を核としたIPベースの通信システムである。VoIPは、音声をデジタルデータに変換し、IPネットワークを通じてパケットとして送受信する技術である。これにより、既存のデータ通信ネットワークを音声通信にも活用できるため、回線の一元化や通信コストの削減が期待できる。IPベースの通信システムは、企業内に設置する「IP-PBX(Private Branch eXchange)」や、クラウド上で提供される「クラウドPBX」が主流となっている。IP-PBXは社内ネットワークに接続され、内線通話や外線接続を制御する役割を担う。一方、クラウドPBXは、PBXの機能をクラウドサービスとして利用するため、物理的な機器の導入や保守が不要となり、初期投資を抑えつつ、拠点の増設や機能追加に柔軟に対応できる利点がある。
この移行プロセスにおいては、いくつかの重要な考慮事項がある。まず、既存のPSTN回線や電話番号をIPネットワーク上で利用するための準備が必要となる。これは「番号ポータビリティ」と呼ばれる仕組みを利用して、これまで使っていた電話番号を継続して使用することを可能にする。また、PSTNとIPネットワークの間で信号を変換するための「VoIPゲートウェイ」と呼ばれる機器の導入も必要となる場合がある。特に、既存のFAX機や特定の警報装置など、アナログ回線でしか動作しない機器が存在する場合は、これらの機器との互換性を確保するための検討も重要である。
ネットワークインフラの整備も不可欠である。VoIP通信はパケット通信であるため、ネットワークの品質(帯域幅、遅延、パケットロスなど)が音声品質に直結する。安定した高品質な音声通話を実現するためには、適切なネットワーク設計と帯域確保、QoS(Quality of Service)設定などが必要となる。セキュリティ対策も重要な要素であり、VoIPシステムへの不正アクセスや盗聴を防ぐための暗号化、ファイアウォール、VPN(Virtual Private Network)などの導入が求められる。
PSTNマイグレーションのメリットは多岐にわたる。最も分かりやすいのは通信コストの削減である。IP電話は、インターネット回線を利用するため、固定電話間の通話料金が低廉になる傾向があり、特に拠点間の内線通話は無料で実現できることが多い。また、運用管理の効率化も期待できる。クラウドPBXを利用すれば、専門的な知識を持つ人材が不要となり、システム管理者の負担が軽減される。さらに、VoIPシステムは他のITシステムとの連携が容易であり、CTI(Computer Telephony Integration)による顧客情報表示や、CRM(Customer Relationship Management)システムとの連携、Web会議システムとの統合など、ユニファイドコミュニケーション(UC)環境を構築し、生産性向上に貢献することも可能である。
しかし、デメリットや課題も存在する。初期投資が必要となること、ネットワーク障害が通信全体に影響を及ぼすリスク、緊急通報(110番、119番など)への対応方法の確認、そして従業員が新しいシステムに慣れるまでのトレーニングなどである。これらの課題に対しては、綿密な計画立案、信頼できるベンダーの選定、段階的な移行、十分なトレーニングとサポート体制の構築によって対処していく必要がある。PSTNマイグレーションは、単なる技術的な移行ではなく、企業のビジネスモデルや働き方にも影響を与える戦略的な取り組みであり、その成功は企業の将来的な競争力に大きく寄与することとなる。