【ITニュース解説】Building Scalable Multi-Modal AI Agents with Strands Agents and Amazon S3 Vectors
2025年09月09日に「Dev.to」が公開したITニュース「Building Scalable Multi-Modal AI Agents with Strands Agents and Amazon S3 Vectors」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
OSSフレームワーク「Strands Agent」とAWSの「Amazon S3 Vectors」を使い、画像や動画を理解するAIエージェントを構築する方法を紹介。S3のベクトル検索機能でAIの記憶を永続化し、ローカル開発から大規模な本番環境へ容易に拡張できる。
ITニュース解説
近年、人間のように対話し、様々な種類のデータを扱ってタスクを自律的に実行する「AIエージェント」の開発が急速に進んでいる。このAIエージェントをより賢く、そして実用的にするためには、人間と同じように過去のやり取りや学んだ知識を覚えておく「記憶」の能力が不可欠である。ここでは、オープンソースのフレームワーク「Strands Agents」と、Amazon Web Services(AWS)が提供する「Amazon S3 Vectors」を組み合わせ、高度な記憶能力を持つスケーラブルなAIエージェントを構築する技術について解説する。
AIが情報を「記憶」する仕組みの中心には、「ベクトル検索」という技術がある。AIはテキスト、画像、動画などのデータを、そのままでは計算処理できない。そのため、まずこれらのデータを「ベクトル」と呼ばれる数値の集まりに変換する。ベクトルは、データが持つ意味や特徴を数値で表現したものであり、意味的に近いデータほど、ベクトル空間と呼ばれる仮想の座標空間上で互いに近い位置に配置される。ベクトル検索とは、この空間の中から、特定の情報と意味的に最も近い情報を高速で探し出す技術である。この仕組みを利用することで、AIエージェントは過去の膨大な会話ログや知識データベースの中から、現在の文脈に最も関連性の高い情報を瞬時に取り出し、より的確な応答を生成することが可能になる。
AIエージェントの開発では、その規模や段階に応じて異なる記憶装置が使われる。開発の初期段階や、個人が手元のコンピュータで試作する際には、「FAISS」のようなライブラリが便利である。これは、比較的小規模なデータセットに対して高速なベクトル検索をローカル環境で実現できるため、手軽にAIの記憶機能を試すことができる。しかし、多くのユーザーが利用する商用サービスのような本番環境では、データ量が爆発的に増加するため、FAISSのようなローカルの仕組みでは性能や管理の面で限界が訪れる。そこで必要となるのが、クラウド上で提供される大規模なベクトルストアである。「Amazon S3 Vectors」は、その有力な選択肢の一つだ。これは、世界中で利用されているAWSのオブジェクトストレージサービス「Amazon S3」に、ネイティブのベクトル検索機能が統合されたものである。開発者はサーバーの構築や拡張といったインフラ管理の複雑さから解放され、膨大な量のベクトルデータを安全かつ効率的に扱うことができる。また、ベクトル検索専用のデータベースを別途構築・管理する場合と比較して、コストを抑えやすいという利点もある。
このスケーラブルな記憶装置であるAmazon S3 Vectorsと、AIエージェント開発を簡素化する「Strands Agents」フレームワークを組み合わせることで、開発者は効率的に高度なAIアプリケーションを構築できる。Strands Agentsは、数行のコードを書くだけで、テキストだけでなく画像や動画、文書といった複数の種類のデータ、すなわち「マルチモーダル」な情報を扱えるAIエージェントを作成できるように設計されている。このフレームワークに記憶装置としてAmazon S3 Vectorsを接続する作業は非常にシンプルで、エージェントの設定でメモリ用のツールとして指定するだけでよい。例えば、ユーザーが自己紹介をし、自身の好みや職業に関する情報をAIエージェントに伝えたとする。エージェントは、その内容をベクトル化して即座にS3 Vectorsに保存する。次に、ユーザーが業務関連の文書ファイルを提示し、要約を指示すると、エージェントはその要約結果も記憶として保存する。後日、ユーザーが「私の仕事に関連する情報だけを前の文書から抽出して」と曖昧な指示を出した場合でも、エージェントはS3 Vectorsに保存された過去の会話からユーザーの職業を思い出し、その文脈を踏まえて的確な情報を抽出して応答することが可能になる。このように、AIエージェントは対話を重ねるごとにユーザーに関する知識を蓄積し、パーソナライズされたアシスタントへと成長していく。
この技術の応用範囲は広い。企業が社内の膨大な文書やマニュアルをS3 Vectorsに保存し、AIエージェントを通じて従業員が必要な情報を自然言語で問い合わせる、高度な社内検索システムを構築できる。また、AIが回答を生成する際に、外部の信頼できる情報源をベクトル検索で参照し、より正確で根拠のある回答を作る「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」と呼ばれる技術の基盤としても活用できる。Strands AgentsとAmazon S3 Vectorsの組み合わせは、開発のハードルを下げながらも、本格的な商用利用に耐えうる、賢くスケーラブルなAIエージェントを開発するための強力な手法だと言える。