【ITニュース解説】UN Smart Maps Group ポータブルウェブの進捗まとめ 2025-09
2025年09月09日に「Dev.to」が公開したITニュース「UN Smart Maps Group ポータブルウェブの進捗まとめ 2025-09」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
UN Smart Maps Groupは、個人でも数百GBの地理空間データをウェブ配信する手法を研究。各種技術検証を経て、Raspberry PiとCloudflare CDN等を組み合わせた「x-24b」を開発し、低コストで安定した高速配信を実現した。
ITニュース解説
インターネット上で地図などの巨大なデータを公開することは、技術的に非常に難しい課題であった。特に、数百ギガバイトにも達する「地理空間データ」を個人や小規模なグループが安定して配信するには、高性能なサーバーや専門的なネットワーク知識が必要となり、コスト面でも大きな障壁が存在した。この課題に対し、国連の専門家グループである「UN Smart Maps Group」は、誰もが低コストで簡単に大規模データをウェブ上で共有できる「ポータブルウェブ」というコンセプトを掲げ、その実現に向けた研究開発を進めてきた。
研究チームは、まず複数の技術的アプローチを検証することから始めた。最初の試みは、Amazon S3のようにファイルを管理できるオープンソースの「オブジェクトストレージ」であるMinioを利用する方法だった。オブジェクトストレージは、データを個別のオブジェクトとして扱うことで柔軟な管理を可能にする技術であり、導入は比較的容易であった。しかし、安価な小型コンピュータであるRaspberry Piを複数台使った実験環境では、巨大なファイルを扱う際にシステムの負荷が非常に高くなり、性能が不安定になるという問題が明らかになった。計算資源が限られた環境では、スケーラビリティに課題が残り、個人レベルでの運用には適さないと判断された。次に注目したのは、特定の管理者を持たず、ユーザー同士が直接データをやり取りするP2P(ピアツーピア)の考え方に基づいた「分散ストレージ」技術のIPFS Kuboである。この技術は、データをネットワーク上に分散させることで耐障害性を高める魅力的なコンセプトを持つ。しかし、実際の運用を想定したテストでは、データ配信のパフォーマンスが安定せず、また、データをネットワーク上で維持し続けるための仕組みにも課題が見つかった。結果として、現時点では大規模な地理空間データを効率的に配信するための最適な解決策ではないという結論に至った。
これらの試行錯誤を経て、研究チームはより現実的で効果的なソリューションとして「x-24b」と名付けられたプロトタイプを開発した。このアプローチの核心は、単一の革新的な技術に頼るのではなく、それぞれが実績のある複数のソフトウェアを巧みに組み合わせる点にある。x-24bのシステムは、自宅などの小規模な環境に設置されたRaspberry Pi上で動作する。その内部では、まず「PMTiles」という特殊な形式の地理空間データが用意される。これは、巨大な地図データの中から、ユーザーが見たい部分だけを高速に取り出すことができるように最適化されたファイル形式である。このPMTilesデータを効率的に配信する役割を担うのが、専門のタイルサーバー「Martin」である。そして、外部からのリクエストを受け付け、Martinに必要な指示を出す交通整理役として、高性能なウェブサーバー「Caddy」が配置される。Caddyはリバースプロキシとして機能し、静的なファイルの配信なども行う。ここまでの構成はローカル環境で完結するが、最も重要な要素は、このローカルサーバーをいかにして安全かつ高速にインターネットへ公開するかという点である。そのために利用されるのが、「Cloudflared」というツールと、それが接続する「Cloudflare CDN」サービスである。Cloudflaredは、ローカルのサーバーとCloudflareの巨大なネットワークとの間に暗号化された安全なトンネルを確立する。これにより、サーバー自体にグローバルIPアドレスを持たせる必要がなくなり、外部からの直接的な攻撃リスクを大幅に低減できる。ユーザーからのアクセスは、まず世界中に配置されたCloudflareのCDNサーバーが受け取る。CDNはコンテンツデリバリーネットワークの略で、ユーザーに最も近いサーバーからデータを配信することで、ウェブサイトの表示を高速化する仕組みである。もしCDNに要求されたデータが存在しない場合、リクエストはCloudflaredが作ったトンネルを通じてローカルのCaddyサーバーへと転送され、MartinがPMTilesから必要なデータを生成して応答する。この一連の流れにより、非力なローカルサーバーであっても、CDNの力を借りることで世界中のユーザーに対して高速かつ安定したデータ配信が可能となるのである。
このx-24bプロトタイプは、1ヶ月以上にわたる連続運用テストにおいても問題なく動作し、その高い安定性が証明された。最大の利点は、Cloudflare CDNを活用することで得られる世界規模での高速アクセスと、強固なセキュリティ機能である。また、Cloudflareが提供する無料プランの範囲内で運用が可能であるため、個人や小規模なグループでも維持可能な経済性を実現している。この成功は、大規模な地理空間データを誰もが自由に公開・共有できる未来への大きな一歩を意味する。研究チームは、この成果を基盤として「FOIL4G(Free and Open Information Library for Geospatial)」という、より壮大な構想を推進している。これは、x-24bのような仕組みを多くの個人や組織が導入し、それぞれがホスティングする地理空間データを相互に連携させることで、分散型でオープンな情報ライブラリを構築しようという試みである。この研究は、高度なITインフラがもはや大組織の専有物ではないことを示した。適切な技術を賢く組み合わせることで、誰もが価値ある情報を世界に向けて発信できる可能性が広がったのである。