Webエンジニア向けプログラミング解説動画をYouTubeで配信中!
▶ チャンネル登録はこちら

【ITニュース解説】Managed RAG search inside the sovereign perimeter: Gemini on GDC enterprise search

2026年10月21日に「Google Cloud Blog」が公開したITニュース「Managed RAG search inside the sovereign perimeter: Gemini on GDC enterprise search」について初心者にもわかりやすく解説しています。

作成日: 更新日:

ITニュース概要

Googleは、インターネットから隔離されたGDC上で機密データを安全に検索・分析できる機能を提供。Geminiを使い、企業内の文書、画像、音声、動画から必要な情報を抽出し、要約や翻訳を支援する。厳格なセキュリティを保ちつつ、高度なAI検索を導入できる。

ITニュース解説

このニュースは、機密性の高いデータを扱う組織が直面する大きな課題を解決するために、Googleが「Google Distributed Cloud (GDC) air-gapped」という特別な環境で「Gemini」という先進的なAIモデルを活用した新しいエンタープライズ検索機能を提供開始したことを報じている。国家安全保障機関をはじめとする、非常に厳しい規制下にある組織は、分類済みの報告書や現場のマニュアル、多様な形式の機密データといった極めて重要な情報を取り扱っている。これらの組織にとって、パブリッククラウドで利用できる高度な検索機能や多形式のデータ分析機能は非常に魅力的だが、データの主権に関する厳格な義務があるため、データを組織の物理的な境界外に出すことができないという大きな制約があった。

これまでの代替策としては、セキュリティが確保された閉鎖的なネットワーク内で、独自の検索システムを構築・運用することが一般的だった。しかし、このアプローチには、複数のAIモデルを組み合わせたり、音声認識やOCR(光学文字認識)のパイプラインを構築したり、情報を数値表現に変換して保存するベクトルデータベースを設定したり、専用のユーザーインターフェースを開発したりと、ゼロからすべてを構築し、維持管理する必要があり、膨大な時間と労力がかかっていた。このような複雑さとコストが、最新のデータ分析技術を導入する上での大きな障壁となっていたのだ。

今回発表された新機能は、これらの課題を一挙に解決するものだ。「GDC air-gapped上のGeminiを活用したエンタープライズ検索機能」は、既存の文書から情報を探し出して(Retrieval)、それを元に質問に答える(Generation)AIの技術(RAG)を完全に管理された形で提供するシステムである。このシステム最大の特徴は、お客様のデータセンター内に設置されたGDC環境内で完全に動作し、インターネットやGoogle Cloudのグローバルインフラストラクチャとは一切接続しない「エアギャップド(air-gapped)」環境で提供される点にある。これにより、機密データが外部ネットワークに漏洩するリスクを根本的に排除しつつ、最新のAI技術を安全に利用できるようになった。

この新機能を使えば、ユーザーは組織内の多様なファイルをシステムにアップロードし、その内容についてGeminiに質問できる。例えば、特定の情報を探したり、長文の報告書を要約したり、複数の文書を比較させたり、あるいは別の言語に翻訳させたりすることが可能だ。Geminiからの回答は、必ずその情報がどこから来たのかを示す引用元(ソース)が明記されるため、情報の信頼性を確認できる。また、会話の履歴はセッションをまたいで保持されるので、途中から作業を再開したり、以前の会話を参照したりすることも容易だ。

さらに、この検索機能は、多言語や多形式のデータに対応している点が非常に強力だ。ユーザーは異なる言語で質問し、書かれた言語とは別の言語で書かれた文書から回答を得ることも、Geminiに翻訳させることもできる。また、音声記録、動画クリップ、画像、スプレッドシートといった様々な形式のデータを一度に組み合わせて質問することが可能で、これまで必要だった音声テキスト変換やOCRといった個別の前処理ステップが不要になる。これにより、データ分析のワークフローが大幅に簡素化され、より迅速なインサイト抽出が期待できる。

アクセス管理についても、厳格なセキュリティポリシーが適用される。各ユーザーがチャットした内容やアップロードしたファイルは、そのユーザーだけが閲覧できるプライベートな空間として扱われる。また、既存のIDプロバイダーグループを活用してアクセスを制御できるため、組織が既に運用しているアクセス管理システムと連携し、必要なメンバーのみが情報にアクセスできるような設定が可能となる。対応するファイル形式は、PDF、Microsoft Word、PowerPoint、Excelファイルに加え、TXT、HTML、PNGやJPEG画像、WAVオーディオ、MP4ビデオなど多岐にわたる。各ファイルは最大100MB、各チャットセッション全体では最大500MBまで扱うことができる。

このシステムの内部構造、つまりアーキテクチャは、以下のような層で構成されている。ユーザーがシステムにアクセスする際には、まず組織のIDプロバイダーを通じてサインインする。管理者は、このサービスのユーザーロールと組織内のIDプロバイダーグループを関連付け、指定されたグループのメンバーだけがアプリケーションにアクセスできるように設定する。各ユーザーのチャット履歴やアップロードされたファイルは、個々のユーザー専用として扱われ、プライバシーが保護される。

次に、ドキュメントの取り込みと「埋め込み」のプロセスがある。ユーザーがファイルをアップロードすると、そのファイルはすぐにアプリケーション内のオブジェクトストレージと呼ばれる、ファイルを格納する場所へ送られる。システムのバックエンドは、そのファイルのメタデータ(ファイルの作成日時や種類などの情報)を、検索に最適化されたPostgreSQLデータベースに記録する。その後、バックエンドはファイルを小さなまとまり、「チャンク」に分割する。例えば、PDFファイルであれば数ページごとに、画像であればタイル状に分割される。これらのチャンクもオブジェクトストレージに書き込まれる。そして、GDCの環境内で直接動作するGeminiの埋め込みモデルが、各チャンクを「ベクトル」と呼ばれる数値の並びに変換する。このベクトルは、ファイルの各部分の意味や内容を数値で表現したもので、後で類似の情報を探し出す際に使われる。このベクトルもPostgreSQLデータベースに保存される。

ユーザーが質問をすると、まずGDC内の顧客データセンターで動作するGeminiモデルが、これまでの会話のコンテキストを踏まえて質問を書き換える。これは、より適切な回答を引き出すための重要なステップだ。次に、書き換えられた質問も同様のモデルでベクトルに変換され、先ほど作成されたベクトルデータベース(情報を数値の並びとして保存し、似たものを高速に探し出すデータベース)を検索する。この検索によって、ユーザーの質問の意図に最も関連性の高いドキュメントのチャンクが特定される。

その後、システムのバックエンドは、ユーザーの質問、これまでの会話履歴、そしてベクトル検索で得られた最も一致するデータ(ドキュメントのチャンク)を一つにまとめ、マルチモーダルプロンプトとしてGDC内のNVIDIA B300 GPU上で動作するGeminiモデルに送る。Geminiは、テキストだけでなく、画像、音声、動画も直接入力として受け取ることができるため、異なる種類のファイルから得られたデータであっても、単一のコンテキストの中で情報を推論し、回答を生成することが可能だ。前述のように、これにより個別の音声テキスト変換やOCRモデルを用意する必要がなくなる。生成された回答は、引用元ファイルへの参照とともに、ユーザーにストリーミング形式で返される。

永続性(Persistence)層では、各会話の状態が保持される。質問と回答はシステムのデータベースに保存され、アップロードされたファイルはオブジェクトストレージに残る。これにより、ユーザーは以前のセッションを再開し、作業を中断した場所から続けることができる。

このシステムは、機密性の高い環境や国家機関の厳しい要件を満たすように設計されている。ユーザーが入力したプロンプト、Geminiからの応答、アップロードされたドキュメント、そしてそれらから生成された埋め込み情報は、組織のエアギャップドネットワークから決して外に出ることはない。すべてのAIモデルは、顧客の環境内でローカルに実行される。データのセキュリティに関しては、保存されているデータはAES-256ディスク暗号化によって保護され、その暗号化キーは組織内で管理されるHSM(ハードウェアセキュリティモジュール)によって保護される。データがシステム内を移動する際(転送中)も、FIPS承認アルゴリズムを使用したTLS暗号化が適用される。リソースへのアクセスは、ローカルのIAM(Identity and Access Management)と、詳細な役割ベースのアクセス制御(RBAC)によって厳密に管理される。GDC air-gappedは、米国国防総省のIL6認定を取得しており、FedRAMP Highなどの非常に厳しいセキュリティ要件に準拠するように設計されている。

特に注目すべき機能として、構造化されたスプレッドシートデータ(CSVやXLSXファイルなど)から正確で決定的な回答を導き出すために、Geminiエンタープライズ検索は、Geminiの推論スタックに組み込まれたローカルのコード実行エンジンを活用する。例えば、「各部門の平均給与を計算する」といった分析的な質問がされた場合、Geminiは動的にPythonコードを生成し、それを「Agent Substrate」というオープンソースの実行環境内で安全に実行する。これは、大規模なAIエージェントのオーケストレーションのために構築された環境だ。AIが生成したコードを実行することにはセキュリティ上のリスクが伴うが、Agent Substrateは厳格なネットワーク分離を強制し、gVisorサンドボックス内でワークロードを実行することで、強力な分離境界を確保しつつ、推論性能を犠牲にしない設計になっている。

まとめると、このGoogle Distributed Cloud (GDC) air-gapped上のGeminiエンタープライズ検索機能は、組織が「妥協のないセキュリティ」と「最先端のマルチモーダルインテリジェンス」の間で選択を迫られる必要がなくなるという画期的なソリューションだ。インターネットに依存することなく、Gemini 3.5 Flashのような最新のAIモデルと検索に最適化されたデータベースが、組織の閉域網内で連携して動作する。これにより、最高の自律的なAI機能を、最もセキュリティが要求される環境で活用できるようになるのだ。この新しい機能は、政府機関や高度に規制された業界において、データの活用方法を大きく変える可能性を秘めていると言える。

関連コンテンツ

関連IT用語