【ITニュース解説】Statement on discourse about ActivityPub and AT Protocol

最近、インターネット上で私たちが情報をやり取りする「ソーシャルウェブ」のあり方について、大きな変化が起きている。これまでの多くのソーシャルサービスは、特定の企業が運営する「中央集権型」のシステムであり、ユーザーのデータやサービス提供の決定権がその企業に集中していた。しかし、こうした状況から、権限が分散され、ユーザーがより多くのコントロールを持つ「分散型ソーシャルウェブ」への関心が高まっている。この分散型ソーシャルウェブを実現するための基盤技術として、ActivityPubとAT Protocolという二つの主要な技術が注目を集めている。これらのプロトコル（通信規約）を巡る議論が活発になる中で、SWICG（Social Web Incubator Community Group）という団体が、建設的な対話を促すための声明を発表した。

SWICGは、Web技術の国際標準化団体であるW3C（World Wide Web Consortium）の傘下にあるコミュニティグループで、ソーシャルウェブの新しい技術やアイデアを議論し、発展させることを目的としている。彼らは、ActivityPubとAT Protocolのどちらか一方を支持するのではなく、両者の技術的な特徴や哲学の違いを理解し、尊重に基づいた議論を進めることの重要性を強調している。

まずActivityPubについて説明する。ActivityPubはW3Cによって正式に「勧告」された国際標準のプロトコルである。これは、Webの基本技術の一つとして認められ、多くの開発者や企業によって広く利用されることが推奨されていることを意味する。すでにMastodon、PeerTube、Friendicaといった様々な分散型ソーシャルサービスがActivityPubを採用しており、これらによって形成される広大なネットワークは「Fediverse（フェディバース）」と呼ばれている。ActivityPubの大きな特徴は、その柔軟性にある。多様な種類のソーシャル活動（投稿、フォロー、リアクションなど）に対応できるよう設計されており、既存の多くのサービスがこれを基盤として独自の機能を追加しやすい。そのため、成熟したエコシステム、つまり技術を支えるソフトウェア、開発ツール、そして活発なコミュニティがすでに存在している。

次にAT Protocolについて見てみよう。AT Protocolは、Blueskyという新しい分散型ソーシャルサービスを開発するチームによって設計され、推進されているプロトコルである。このプロトコルは、ActivityPubとは異なる独自のアプローチを採用している。主な特徴は、DID（分散型識別子）という仕組みを使ってユーザーのアイデンティティ（身元情報）を管理すること、そして「Data Repositories」という考え方でユーザーの投稿データなどをまとめて管理することにある。これにより、ユーザーがサービスプロバイダーを変えても、自分のアカウント情報を比較的容易に移行できる「アカウントポータビリティ」と、不適切なコンテンツを検出・対応する「モデレーション」の機能に特に力を入れている。AT Protocolは比較的新しいプロトコルであり、現在も活発に開発が進められ、進化している段階である。

これらの二つのプロトコルは、どちらも分散型ソーシャルウェブを実現するという共通の目標を持っているが、その達成方法や哲学には違いがあるため、しばしば比較され、議論の対象となる。例えば、技術的な設計の優劣、サービスの運用哲学の違い、将来的により多くのユーザーを獲得するのはどちらか、といった点が議論される。しかし、SWICGは、このような議論が単なる競争や攻撃的なものになることを懸念しており、より建設的な対話を求めている。

SWICGは、両プロトコルがそれぞれ異なる強みと弱みを持ち、分散型ソーシャルウェブの発展にそれぞれ異なる形で貢献する可能性を秘めていると認識している。彼らは、技術の多様性がイノベーション（技術革新）を促進する重要な要素であると考えている。そのため、一方のプロトコルを不当に貶めたり、不正確な情報に基づいた議論を行ったりするのではなく、それぞれの技術的な詳細、実装における課題、どのようなユースケース（利用場面）に適しているか、といった事実に基づいた客観的な議論を推奨している。

最終的にSWICGが目指すのは、開発者、研究者、そして一般のユーザーを含む全ての関係者が、オープンで互いを尊重する姿勢で対話を進めることである。異なるプロトコルの開発者たちが互いに学び合い、分散型ソーシャルウェブが直面する共通の課題（例えば、スパム対策や悪意のあるコンテンツへの対処など）に対して協力し合うことの重要性を訴えている。このような建設的なアプローチを通じて、より堅牢で、より多くの人々が利用しやすく、誰もが安心して使える分散型ソーシャルウェブが実現されることを期待している。