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【ITニュース解説】Spec Driven Development (SDD) - A initial review

2025年09月17日に「Dev.to」が公開したITニュース「Spec Driven Development (SDD) - A initial review」について初心者にもわかりやすく解説しています。

作成日: 更新日:

ITニュース概要

AIによるコード生成は手軽だが品質に課題がある。Spec Driven Development (SDD)は、最初に詳細な仕様を定義し、その仕様に基づきAIがコード生成・検証を行う開発手法だ。GitHub Spec Kitがこれを支援し、品質と保守性の高いシステム開発を目指す。精緻な仕様定義は人間の役割だ。

ITニュース解説

近年、AI技術の進化により、ソフトウェア開発の現場ではコード生成のあり方が大きく変化している。2025年ごろから登場した「Vibe Coding」という言葉が示すように、簡単なテキスト指示(プロンプト)をAIアシスタントに与えるだけで、アプリケーション全体を作り出すことが可能になった。実際に、ある著名なスタートアップアクセラレーターの卒業生企業のうち25%が、95%以上AIが生成したコードを持つという報告もある。

しかし、この手軽な開発手法には多くの課題が明らかになってきた。AIが生成するアプリケーションは、見た目は整っているものの、コードの品質、システム全体のアーキテクチャ設計、APIの設計パターン、そしてセキュリティ基準の遵守といった点で不十分な結果になることが少なくない。これは、AIの能力不足というより、開発者自身が「何をどのように作ってほしいか」「結果をどう検証すべきか」といった具体的な要望をAIに正確に伝えきれていないことが主な原因である。人間はコードを書くことには慣れていても、その意図を明確なテキストとして表現することに苦労するのだ。

このような状況を受け、新たな開発手法として「Spec Driven Development (SDD)」、つまり仕様駆動開発が注目されている。これは、従来のソフトウェア開発で培われた経験と、AIアシストコーディングツールの利点を組み合わせたアプローチである。過去の筆者の経験から見ても、テスト駆動開発(TDD)のようにコードを書く前にテストを定義する手法には利点がある一方で、開発の創造性を阻害すると感じることもあった。また、ユーザーの要望が不明確なために開発の途中で手戻りが頻繁に発生し、多くの時間と労力が無駄になる経験もしてきた。

SDDは、AI時代の開発におけるこれらの課題を解決するために考案された。その基本的な考え方は、コードを書き始める前にまず「仕様(Specification)」を徹底的に定義することから開発を始める点にある。この仕様は、開発するコードがどのように振る舞うべきかを定めた「契約書」のような役割を果たし、AIツールがコードを生成し、テストし、そのコードが正しく動作するかを検証するための信頼できる情報源となる。これにより、開発における不確実性が減り、予期せぬ問題が少なくなり、結果として高品質なコードが生まれやすくなるのだ。

SDDは、開発プロセスを4つの明確なフェーズに分けて進める。それぞれのフェーズでAIアシストツールを活用しながら、開発者はその目標を自然言語で明確に表現することに集中する。

最初のフェーズは「Specify(仕様化)」である。ここでは、何を作るのか、なぜ作るのかを高いレベルで記述する。技術的な詳細に踏み込むのではなく、ユーザーが誰で、どのような問題を解決し、どのようにアプリケーションを操作し、何をもって成功とするのか、といったユーザー目線での目標を定義する。AIエージェントはこれに基づいて詳細な仕様を生成し、この仕様はプロジェクトの進行とともに進化する「生きるドキュメント」となる。

次に「Plan(計画)」フェーズに移る。このフェーズで初めて技術的な側面に焦点を当てる。開発者は、使用したい技術スタック(プログラミング言語、フレームワークなど)、システム全体のアーキテクチャ、統合が必要な既存システム、コンプライアンス要件、性能目標といった制約や要望をAIエージェントに伝える。AIはこれらを基に、包括的な技術計画を作成する。企業の標準技術やアーキテクチャパターンをAIに学習させることで、より適切な計画を立てさせることも可能だ。これは、AIが実際にコードを書き始める前に、開発のルールを明確に設定するようなものだ。

三番目のフェーズは「Tasks(タスク化)」である。ここでは、AIエージェントが、前のフェーズで定義された仕様と計画を基に、実行可能で検証可能な小さな作業単位に分解する。例えば、「認証機能を構築する」といった大まかな指示ではなく、「メール形式を検証するユーザー登録用のAPIエンドポイントを作成する」といった具体的なタスクが生成される。各タスクは独立して実装・テストできるように設計されており、これによりAIエージェントは自身の作業を検証しながら進めることができ、テスト駆動開発のアプローチに近い形で品質を確保する。

最後のフェーズは「Implement(実装)」である。AIエージェントは、前のフェーズで定義されたタスクを順次または並行して実行し、実際のコードを生成する。この際、開発者は大量のコードを一気にレビューするのではなく、特定の問題に対応する集中的な変更点を評価する。AIエージェントは、仕様で「何を作るべきか」、計画で「どう作るべきか」、タスクで「何を具体的に作業すべきか」という明確な指示を持って作業を進めるため、開発者はその成果物の精度を向上させやすい。しかし、開発者の役割はAIを操縦するだけでなく、生成された成果物を「検証」することに拡大する。各フェーズで立ち止まり、仕様が本当に意図通りか、計画が現実的な制約に対応しているか、AIが見落としているエッジケースはないかなどを確認し、必要に応じて修正を行うことが極めて重要である。AIが成果物を作り出す一方で、その正確性と関連性を保証するのは人間の開発者なのである。

SDDを実践する上で、必要な広範なテキストの定義を簡素化するために、GitHubは「Spec Kit」というオープンソースのコマンドラインインターフェース(CLI)ツールをリリースしている。これは、SDDのプロセスに必要なファイルを簡単に作成できるように設計されている。Spec KitはPythonのパッケージマネージャーであるuvxを使ってインストールでき、プロジェクト初期化時に使用するAIコーディングアシスタントを選択するが、一度選択すると後から変更できない点には注意が必要だ。

Spec Kitによって作成されるプロジェクト構造を理解することは、SDDを効果的に進める上で重要である。主要なディレクトリとして、「prompt」フォルダには、GitHub CopilotなどのAIアシスタントを通じて実行できる再利用可能なプロンプトが含まれる。これらのプロンプトは、AIが初期仕様、技術実装計画、そして具体的なタスクを生成する際に従うべき指示を定義している。

次に重要なのは「memory」フォルダ内の「constitution.md」ファイルである。このファイルには、プロジェクトの「憲法」とも呼べるような原則が定義される。例えば、推奨されるアーキテクチャスタイル、API設計パターン、テスト駆動開発のアプローチ、使用するライブラリや技術、コーディング標準などが含まれる。AIアシストツールがこれを参照するため、このファイルを詳細に記述することは、プロジェクト全体の品質と一貫性を保つ上で非常に重要だ。

「scripts」ディレクトリには、AIエージェントが仕様を理解したり、開発ブランチを作成したり、他の必要なファイルを生成したりするために実行するシェルスクリプトが含まれる。これらはSDDワークフローの自動化に不可欠なため、手動で変更すべきではない。「templates」フォルダには、AIエージェントが生成するファイルのMarkdownテンプレートが格納されており、フォーマットの一貫性を保つ。

実際にSpec Kitを使って開発を始める場合、まず「constitution.md」にプロジェクトの原則を設定する。その後、AIアシスタントに/specifyコマンドでアプリケーションの目的を自然言語で記述し、AIに詳細な仕様を生成させる。このとき、技術的な詳細ではなく、ユーザー体験に焦点を当てることが肝心である。AIが生成した仕様には、品質や要件の完全性を検証するためのチェックリストが含まれるため、それらを基に内容を確認し、必要に応じて修正する。特に、エッジケースと呼ばれる例外的な状況については、開発者が手動で追加することが不可欠だ。

仕様が固まったら、/planコマンドで技術計画を作成する。アプリケーションが使用するフレームワーク、データ源、テスト環境といった具体的な技術的制約や構成を指示する。AIはこれに基づいて、計画書やプロジェクトの初期設定手順などを生成する。開発者は、AIが作成したこれらの計画が、意図したアーキテクチャ、フレームワークの標準、そして最初に定義した仕様の要件に合致しているかを慎重にレビューする必要がある。

最後に、/tasksコマンドを実行すると、AIエージェントは定義された仕様を実装するために必要な全てのタスクをステップバイステップで記述したタスクリストを作成する。これらのタスクは複数のフェーズに整理され、それぞれに一意の識別子が付けられる。開発者はこのタスクリストに従って作業を進め、手動で完了したタスクはマークしていく。これで、AIアシスタントが実際のコーディングの「重労働」を担う準備が整うのだ。

現在、Spec Kitはまだ実験的な段階にあり、いくつかの制限があることも理解しておく必要がある。例えば、一度選択したAIツールを後から簡単に切り替えることができない点や、既存のプロジェクトよりも新規プロジェクトに適している点、Python 3.11以上が必要である点、そして急速な開発によりドキュメントが最新の機能に追いついていない可能性がある点などが挙げられる。

しかし、GitHubはSpec Kitを構造化されたAIアシスト開発の実験として位置付けており、初期の導入実績は有望である。大手テクノロジー企業もすでにSDDの原則を開発ワークフローに取り入れ始めており、AIコーディングツールの進化も相まって、仕様駆動型のアプローチは実験的な技術ではなく、標準的な開発手法となる可能性を秘めている。

結論として、Spec Driven Developmentは、AIアシストコーディングにおける品質と保守性の問題に対処するための、構造化された有望なアプローチだと言える。GitHub Spec Kitは、定義済みのプロンプトとテンプレートを通じて、AIによるコード生成に明確な「ガードレール」を提供することで、このプロセスを簡素化する。

理論上、SDDは現代のAIアシスト開発の論理的な進化形態のように見えるが、実際に直面する最も根本的な課題は、AIではなく「人間の仕様化能力」にある。SDDは、開発者が自身の意図を正確に指定することを求め、それに基づいてAIエージェントが実行する。しかし、ソフトウェア開発の現場では、要件が実装前に完全に明確化されているプロジェクトは稀であるのが実情だ。開発者が「効率的だが、完璧な仕様定義は苦手」という性質を持っているため、この「明確な仕様を定義する」という部分が、SDDにとって最大の試練となる可能性がある。

Spec Kitは、開発者が生成されたドキュメントを継続的に拡張し、仕様を洗練することを促す。しかし、筆者の経験からすると、それだけで常に良い結果が得られるわけではない。高品質なコードを生成させるためには、追加のルールや社内文書サーバーなどを活用する必要がある場合もある。

最終的に、このSDDモデルが開発時間を実際に短縮するのか、それともAI生成コードの品質管理という、ある意味でAIの導入によって「自ら作り出した問題」に対処するための新たな仕様定義のオーバーヘッドを増やし、長期的なフラストレーションにつながるのかは、まだ見極めが必要である。筆者は今後も自身のプロジェクトでSDDを試し続け、この手法とツールが成熟するにつれてその進捗を公開していく予定だ。初期の兆候では、SDDは確かに先行する仕様定義のオーバーヘッドを追加するが、プロトタイプレベルを超えたAIアシスト開発を大規模に進める上では不可欠なものとなる可能性があると言える。

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