SLI(エスエルアイ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
SLI(エスエルアイ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
シーエルアイ (シーエルアイ)
英語表記
SLI (エスエルアイ)
用語解説
SLI (Scalable Link Interface) は、NVIDIA社が開発した、複数のグラフィック処理ユニット (GPU) を連携させてグラフィック性能を向上させるための技術である。主にパーソナルコンピュータにおいて、3Dグラフィックスの描画性能を高める目的で導入された。システムエンジニアを目指す上で、過去の高性能化技術の一つとしてその概念を理解することは、ハードウェアとソフトウェアの連携、性能向上における課題、そして技術の進化の方向性を学ぶ上で役立つ。
概要として、SLIは、対応するグラフィックカードを2枚以上、通常はマザーボードのPCI Expressスロットに装着し、専用のコネクタ(SLIブリッジ)で接続することによって機能する。これにより、複数のGPUが協調してグラフィックデータを処理し、単一の高性能GPUでは実現が困難な高いフレームレートや、高解像度環境での滑らかな描画を可能にすることを目指した。ゲーミングPCや一部のワークステーションにおいて、最高のグラフィック性能を求めるユーザーにとって魅力的な選択肢の一つであった。
詳細を述べると、SLIの動作原理は、複数のGPUにレンダリング作業を分散させる点にある。主なレンダリング方式として、AFR (Alternate Frame Rendering) とSFR (Split Frame Rendering) が存在する。AFRは、各GPUが交互に異なるフレーム(画像の一コマ)をレンダリングする方式である。例えば、1番目のGPUが奇数番目のフレームを、2番目のGPUが偶数番目のフレームを担当し、それらを組み合わせて最終的な映像として出力する。これにより、理論上はGPUの数に比例してフレームレートが向上することが期待された。一方、SFRは、1つのフレームを複数のGPUで分割してレンダリングする方式である。例えば、画面の上半分を1番目のGPUが、下半分を2番目のGPUが担当するといった形である。どちらの方式も、NVIDIAのドライバがアプリケーションの特性に応じて最適な方法を自動的またはユーザー設定に基づいて選択し、処理の負荷分散を行う。
SLIを利用するには、単に複数のNVIDIA製GPUを用意するだけでなく、いくつかの条件を満たす必要がある。まず、SLIに対応したマザーボードが不可欠である。これは、複数のPCI Express x16スロットを備え、かつSLIをサポートするチップセットを搭載していることを意味する。また、各GPUを物理的に接続するためのSLIブリッジも必須である。このブリッジは、GPU間で高速なデータ通信を行うための専用バスとして機能する。さらに、システム全体の安定稼働のためには、複数のGPUとその他のコンポーネントに十分な電力を供給できる大容量の電源ユニットも必要となる。ソフトウェア面では、NVIDIAのグラフィックドライバがSLI機能を提供し、ユーザーはNVIDIAコントロールパネルを通じてSLIの有効化や設定変更を行うことができた。しかし、アプリケーション(特にゲーム)側がSLIに最適化されているかどうかが、実際の性能向上に大きく影響した。SLIに対応していない、あるいは最適化されていないアプリケーションでは、性能がほとんど向上しない、または予期せぬ不具合が発生する可能性もあった。
SLIの最大の利点は、理論上のグラフィック性能の飛躍的な向上にあった。特に高解像度(4K以上)や高リフレッシュレート(120Hz以上)のディスプレイを使用する環境では、単一GPUでは実現困難な滑らかな描画を可能にするポテンシャルがあった。これにより、最も要求の厳しい最新のゲームタイトルを高設定で楽しむことが可能となった。しかし、その利点は常に享受できるものではなかった。実際には、GPUの数に比例して性能が向上することは稀で、一般的には1.5倍から1.8倍程度の性能向上が目安とされた。これは、システムのボトルネック(CPU性能、メモリ帯域、ドライバのオーバーヘッドなど)や、アプリケーションのSLI最適化状況に大きく左右されたためである。
SLIの運用にはいくつかの課題も伴った。まず、複数のGPUを使用するため、消費電力と発熱が大幅に増加する。これにより、より強力な冷却システムと大容量電源が必要となり、システムの構築コストと維持コストが増大した。また、特定の条件下では「マイクロスタッタリング」と呼ばれる現象が発生することがあった。これは、平均フレームレートは高いものの、各フレームの生成時間にばらつきがあるために、視覚的に画面が僅かにカクついているように感じられる現象である。これはAFR方式に起因することが多く、ゲーム体験を損なう要因となる可能性があった。さらに、新しいゲームタイトルが登場するたびに、NVIDIAドライバがSLIプロファイルを更新し、最適化を行う必要があったため、常に最新のゲームで最適なSLI性能が得られるわけではなかった。
技術の進化とともに、SLIを取り巻く状況は変化していった。シングルGPUの性能が年々飛躍的に向上し、多くのユーザーにとってSLIの必要性が薄れていった。単一の高性能GPUで十分な性能が得られるようになったことで、SLIの複雑さやコスト、課題を抱えてまでマルチGPU構成を選択するメリットが減少したのである。NVIDIA自身も、2020年代に入ると、GeForce RTX 30シリーズ以降のコンシューマー向けGPUではSLIサポートを大幅に縮小し、一部のハイエンドモデルでのみNVLink(SLIの後継となる高速相互接続技術)を限定的に提供するに留まった。NVLinkは、主にプロフェッショナル用途やデータセンターにおけるAI/ディープラーニングなどのGPGPU (General-purpose computing on Graphics Processing Units) 処理において、GPU間の高帯域幅通信を実現するために利用されるようになった。コンシューマー市場におけるマルチGPU技術の主流は、DirectX 12が提供するExplicit Multi-Adapter (EMA) のようなソフトウェアベースの連携機能に移行する可能性も議論されたが、こちらも広く普及するには至っていない。結果として、SLIはPCゲーミングにおけるグラフィック性能向上の歴史において重要な役割を果たした技術ではあるものの、その役割は終焉を迎え、より専門的な用途へと技術の方向性が変化している。