【ITニュース解説】How to build vector tiles from scratch

2025年09月05日に「Reddit /r/programming」が公開したITニュース「How to build vector tiles from scratch」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

地図表示に使われる「ベクトルタイル」を、プログラミングを用いて基礎から構築する実践的な方法を解説。地図データ構造や表示技術の理解を深める。

ITニュース解説

近年、ウェブ上で地図を表示する技術は目覚ましい進化を遂げており、その中でも「ベクタータイル」は現代の地図表示を支える重要な技術の一つである。ベクタータイルとは、地図の情報を画像ではなく、点、線、面といった幾何学的なデータ(ベクターデータ)として分割し、ウェブ上で効率的に配信・表示するための仕組みを指す。システムエンジニアを目指す上で、この技術の基礎を理解することは、地理空間情報を扱うアプリケーション開発において非常に役立つ。

従来の地図表示技術の主流は「ラスタータイル」であった。これは、事前に地図画像をズームレベルごとに多数生成し、それらを小さな正方形の画像としてタイル状に並べて表示する方法である。ラスタータイルはシンプルで実装が容易な反面、地図のスタイル(色、フォント、表示する情報など)を変更するには、元の画像を再生成する必要があり、多くの時間と計算資源を要するという欠点があった。また、デバイスの画面解像度が向上すると、画像が粗く見えたり、表示サイズが固定されるため、動的なインタラクションが限られるという問題もあった。

一方、ベクタータイルはこれらの課題を解決する。ベクタータイルは、地図の形状情報(道路、建物、河川などの座標データ)とそれに付随する属性情報(道路の名前、建物の種類など)をデータとして保持している。これにより、クライアント側(ウェブブラウザなど)で地図がレンダリングされる際に、ズームレベルに応じて詳細度を調整したり、地図のスタイルを動的に変更したりすることが可能になる。例えば、ユーザーが地図をズームインすると、より詳細な情報が表示されたり、表示するデータの種類を切り替えたりすることも容易である。また、データ自体が軽量であるため、ネットワーク帯域の節約にも繋がり、地図の拡大・縮小や移動が滑らかになる。

「ゼロからベクタータイルを構築する」という表現は、単に既存のツールを使ってタイルを生成するだけでなく、その裏側にあるデータ処理やファイル形式の理解を深めることを意味する。このプロセスは、いくつかの主要なステップに分けられる。

まず、基となる地理空間データの準備が必要となる。これは、国や自治体が公開しているシェープファイルやGeoJSON形式のデータ、あるいはOpenStreetMap(OSM)のようなオープンデータから取得することが多い。これらのデータは、地球上の実際の座標に対応しており、通常は緯度と経度で表現される。

次に、取得した生データをベクタータイルに適した形に変換する処理が重要になる。このステップでは、主に以下の作業が行われる。一つは、データの投影法を統一することである。地図は平面に表示されるため、球体である地球上の座標を平面に変換する投影法が必要となる。ウェブ地図では「ウェブメルカトル図法」が一般的に利用される。もう一つは、データの簡略化(シンプレット化)である。ズームアウトした状態では、詳細すぎるジオメトリ(例えば、海岸線の微細な凹凸)は表示に不要であり、かえってデータ量を増やし処理を重くする原因となる。そこで、各ズームレベルに応じて適切な粒度でジオメトリを単純化する。これにより、タイルごとのデータ量を削減し、描画性能を向上させる。

さらに、データに様々な属性情報(例えば、道路の種類、建物の高さ、土地の利用区分など)を付与したり、整理したりする作業も含まれる。これらの属性は、後で地図のスタイルを決定する際に利用される重要な情報となる。

そして、最も特徴的なステップが「タイリング」である。これは、地図全体をズームレベルに応じて格子状に分割し、各格子(タイル)の中に含まれる地理空間データを抽出する作業である。ズームレベルが低い(広範囲を表示する)ほど、一つのタイルがカバーする範囲は広くなり、含まれるデータは簡略化される。ズームレベルが高い(詳細を表示する)ほど、一つのタイルの範囲は狭くなり、より詳細なデータが含まれる。このタイリングの過程で、タイル境界をまたぐジオメトリは適切に分割され、各タイル内に収まるように処理される必要がある。

抽出されたデータは、最終的に「Mapbox Vector Tile (MVT)」という特定の形式にエンコードされる。MVTは、Protocol Buffers(プロトコルバッファ)というデータシリアライゼーション形式をベースにしており、非常にコンパクトで効率的なバイナリ形式である。この形式は、地理空間データを効率的に表現するための仕様が定義されており、複数のレイヤー(例えば、道路、建物、水域など)を一つのタイル内に含めることができる。ジオメトリは整数座標に変換され、オフセットエンコーディングなどの技術によってデータ量がさらに削減される。

MVT形式にエンコードされたベクタータイルは、ウェブサーバーに配置され、クライアントからのリクエストに応じて配信される。クライアント側では、Mapbox GL JSやOpenLayersといったライブラリが、受信したMVTデータをデコードし、JavaScriptやWebGLの技術を使ってブラウザ上で地図をレンダリングする。この時、MVTに含まれる属性情報とスタイル定義(CSSのような形式で記述される)に基づいて、道路の色を変えたり、特定の建物だけを表示したりといったスタイリングが適用される。

ゼロからベクタータイルを構築する過程を学ぶことは、地理空間データの取得から加工、最適化、エンコード、配信、そしてクライアントでの描画に至るまで、地図表示システムの全体像を深く理解することに繋がる。これは、既存の地図サービスに依存しないカスタム性の高い地図アプリケーションを開発する能力を養い、データ処理、アルゴリズム設計、パフォーマンス最適化といったシステムエンジニアにとって不可欠なスキルを磨く絶好の機会となるだろう。

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