【ITニュース解説】What is your take on Event Sourcing? How hard was it for you to get started?
2025年09月09日に「Reddit /r/programming」が公開したITニュース「What is your take on Event Sourcing? How hard was it for you to get started?」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
イベントソーシングは、全てのデータ変更を「イベント」として記録する設計手法だ。過去の状態を正確に追跡できる利点がある一方、従来のCRUD開発に慣れた開発者には概念が難しく、導入のハードルが高いという課題も指摘されている。(118文字)
ITニュース解説
システム開発において、データをどのように管理するかは非常に重要な設計要素である。多くのシステムでは、データベースに「現在の最新の状態」を保存する方法が採用されている。例えば、ユーザーのプロフィール情報であれば、最新の氏名や住所がデータベースに記録され、変更があれば古い情報は新しい情報で上書きされる。これはCRUD(Create, Read, Update, Delete)と呼ばれる基本的なデータ操作に基づいた考え方だ。しかし、これとは全く異なるアプローチでデータを管理する「イベントソーシング」という設計パターンが存在する。今回は、このイベントソーシングがどのようなもので、なぜ一部の開発者の間で「習得が難しい」と議論されるのかを解説する。
イベントソーシングは、データの「状態」そのものではなく、「状態を変化させた出来事(イベント)」を時系列ですべて記録していく手法である。先ほどのユーザープロフィールの例で考えてみよう。CRUDのシステムでは、ユーザーが住所を「東京都」から「大阪府」に変更した場合、データベース上の住所データは「大阪府」に上書きされ、「東京都」だったという事実は失われる。一方、イベントソーシングでは、「ユーザー登録イベント(氏名、住所:東京都)」と、その後の「住所変更イベント(新住所:大阪府)」という二つの出来事が順番に記録される。現在の住所を知りたい場合は、これらのイベントを最初から順に再生して、「登録時は東京都だったが、その後大阪府に変更されたので、現在の住所は大阪府だ」と判断する。つまり、イベントソーシングにおけるデータの実体は、状態の変化を引き起こしたイベントの連続そのものである。
この手法にはいくつかの強力な利点がある。第一に、完全な監査証跡が得られる点だ。すべての変更がイベントとして記録されているため、「いつ、誰が、何を、どのように変更したか」という履歴を完璧に追跡できる。これは、記事で例として挙げられている金融システムにおいて極めて重要だ。銀行口座の取引履歴は、まさにイベントソーシングの考え方そのものであり、「預金」「引き出し」「振込」といったイベントの連続によって現在の残高が決定される。第二に、過去の任意の時点の状態を正確に復元できることだ。例えば、「昨日の午後3時時点での在庫数を知りたい」といった要求にも、その時点までのイベントを再生するだけで簡単に応えることができる。これは、バグの原因調査やビジネス分析において非常に役立つ。第三に、データの活用における柔軟性が高い点だ。記録された一連のイベントから、様々な視点のデータマート(特定の目的に特化したデータの集まり)を後から自由に作成できる。これを「プロジェクション」と呼ぶ。例えば、最初は顧客情報だけを見ていたとしても、後から「全顧客の月間購入額ランキング」という新しい情報が必要になった場合、既存のイベントストリームを元に新しいプロジェクションを構築するだけで対応できる。記事の投稿者が「新機能の追加は、新しいプロジェクションを追加するだけ」と主張しているのは、この柔軟性を指している。
これほど強力な利点がありながら、なぜイベントソーシングは「難しい」とか「とっつきにくい」と言われるのだろうか。記事の投稿者と議論した相手が主張するように、その最大の理由は、多くの開発者がCRUD、つまり「最新の状態」を直接操作する考え方に慣れ親しんでいるからだ。「状態」ではなく「出来事」を中心にシステムを設計するという思考の転換、つまりパラダイムシフトが求められるため、最初の学習コストが高くなる傾向がある。また、技術的な課題も存在する。現在の状態を知るために毎回すべてのイベントを再生するのは、イベント数が膨大になると非効率的だ。この問題を解決するため、「スナップショット」という特定時点の状態を別途保存しておく仕組みや、書き込み処理と読み取り処理を明確に分離するCQRS(コマンド・クエリ責務分離)というパターンを併用することが一般的だ。CQRSでは、読み取り専用に最適化されたデータベースを別途用意し、イベントが発生するたびにそのデータベースを更新する。しかし、こうした工夫はシステム全体の構成を複雑にする要因にもなり得る。さらに、一度記録したイベントは原則として変更・削除できないため、将来の仕様変更にも耐えられるようなイベントの設計が初期段階で重要になる。イベントの構造自体を変更する必要が生じた場合のバージョン管理も、慎重な対応が求められる。
イベントソーシングは、データの変更履歴をすべて「イベント」として保存することで、完全な監査能力、過去の状態の再現性、そして将来のデータ活用に対する高い柔軟性を実現する設計パターンだ。特に、データの履歴がビジネス上重要な意味を持つ金融、物流、医療などの領域でその真価を発揮する。しかし、その強力なメリットの裏返しとして、従来のCRUDに慣れた開発者にとっては概念の理解に時間がかかり、システムの複雑性が増すという側面も持つ。したがって、イベントソーシングはあらゆるシステムにとっての万能薬ではない。開発チームのスキルセット、システムの要件、そして将来の拡張性を総合的に考慮し、このパターンがもたらすメリットが、その複雑性を上回ると判断された場合に採用を検討すべきアプローチと言えるだろう。