【ITニュース解説】Xbox and LG are bringing cloud gaming to cars

2025年09月09日に「Engadget」が公開したITニュース「Xbox and LG are bringing cloud gaming to cars」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

LGとXboxが提携し、車載ディスプレイでXboxゲームが遊べるクラウドゲーミングを提供。インターネット経由でゲームを配信するため、Game Pass Ultimate加入とコントローラーが必要。主にEV充電中や同乗者向けのエンタメ機能として期待される。

ITニュース解説

マイクロソフトのゲーム部門であるXboxと、韓国の総合電機メーカーであるLGが提携し、自動車の車内で本格的なゲームが楽しめるサービスを提供すると発表した。これは、LGが開発した車載エンターテインメントプラットフォームにXboxのアプリケーションを統合することで実現される。具体的には、インターネットに接続された一部の車両において、車載のインフォテインメントシステムの画面を使ってXboxの豊富なゲームタイトルをプレイできるようになる。このサービスを利用するには、Xboxが提供するサブスクリプションサービス「Xbox Game Pass Ultimate」への加入が必要であり、これによりサービス上で利用可能な数百のゲームや、自身が既に所有している対応タイトルをストリーミング形式で楽しむことが可能になる。もちろん、ゲームをプレイするためには、車両のインターネット接続を有効にし、Bluetooth対応のゲームコントローラーを車載システムに接続する必要がある。

この仕組みの中心にあるのは「クラウドゲーミング」と呼ばれる技術である。従来の家庭用ゲーム機やPCゲームでは、ゲームのプログラムを本体やPCにインストールし、そのハードウェアの処理能力を使って映像や音声を生成していた。そのため、美麗なグラフィックスを持つ高度なゲームをプレイするには、高性能なCPUやGPUを搭載した高価なゲーム機やPCが不可欠だった。しかし、クラウドゲーミングでは、ゲームの実行に必要な複雑な計算処理やグラフィック描画のすべてを、データセンターにある高性能なサーバー側で行う。そして、サーバーで生成されたゲームの映像と音声を、インターネット経由でプレイヤーの端末にストリーミング配信する。プレイヤー側は、その映像を受け取って表示し、コントローラーからの入力情報をサーバーに送信するだけである。この仕組みにより、プレイヤーの手元にある端末は、動画を再生する程度の能力と安定したインターネット接続環境さえあれば、高性能なハードウェアを持っていなくても最新のゲームをプレイできる。今回の発表は、このクラウドゲーミングの特性を活かし、自動車のインフォテインメントシステムをゲーム端末として利用しようという試みだ。

このサービスを実現するためには、いくつかの技術的要素が重要となる。まず、最も重要なのが高速で遅延の少ない通信環境である。クラウドゲーミングは、サーバーと端末間で映像や操作情報をリアルタイムにやり取りするため、通信速度が遅かったり、遅延が大きかったりすると、映像がカクついたり、コントローラーの操作がゲーム内のキャラクターの動きに反映されるまで時間がかかったりといった問題が発生する。近年普及が進む5G(第5世代移動通信システム)のような高速・大容量・低遅延な通信網は、移動中の車内という環境でも安定したクラウドゲーミング体験を提供する上で非常に重要な基盤技術となる。

次に、車載システムの進化もこのサービスを支える大きな要因である。現代の自動車に搭載されている「インフォテインメントシステム」は、単なるカーナビゲーションやオーディオプレイヤーではなく、スマートフォンに近い高度なOS(オペレーティングシステム)を搭載したコンピューターシステムへと進化している。LGが提供するプラットフォームもその一つであり、様々なアプリケーションを追加して機能を拡張できる。ここにXboxアプリを統合することで、ユーザーは特別な機器を追加することなく、シームレスにゲームを起動できるようになる。

しかし、この技術には大きな懸念点も存在する。それは、運転手が運転中にゲームをプレイしてしまうという安全上のリスクである。注意散漫による事故の危険性は極めて高く、この問題は過去にも指摘されている。2021年には、テスラ社が提供していた「Passenger Play」という機能が、走行中でもゲームをプレイできる仕様であったため、米国の高速道路交通安全局(NHTSA)が調査に乗り出す事態となった。その後、テスラはソフトウェアのアップデートを行い、車両が走行中はゲームを起動できないように仕様を変更した。今回のXboxとLGの発表でも、この安全性への配慮は明確に示されており、サービスはあくまでEV(電気自動車)の充電待ちの時間や、長距離移動中の同乗者を楽しませるためのものだと強調されている。技術的には、車両の走行状態を検知し、パーキングブレーキがかかっている、または車両が完全に停止している場合にのみゲームのプレイを許可するといった制御は可能であり、同様の安全対策が講じられると考えられる。

この発表は、自動車が単なる移動手段から、生活やエンターテインメントのための「移動するプライベート空間」へと変化していく未来を象徴する出来事だ。クラウドゲーミング、高速モバイル通信、そして高度化した車載システムという異なる分野の技術が融合することで、これまで考えられなかった新たなユーザー体験が生まれようとしている。システム開発の観点からは、車載OS上でのアプリケーション開発、クラウドサービスとのAPI連携、車両情報(走行状態など)を利用した機能制御、そして何よりも安全性を最優先する設計思想が求められる、非常に興味深い事例である。