【ITニュース解説】Zero-Downtime Database Migration: The Definitive Guide

2025年09月07日に「Dev.to」が公開したITニュース「Zero-Downtime Database Migration: The Definitive Guide」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

サービスを停止せずデータベースを移行する「ゼロダウンタイム移行」は、運用中のシステムを止めないための重要技術だ。計画、大量データ転送、リアルタイム同期、新旧DBへの同時書き込み、そして切り替えと検証まで、段階的に安全に進める手法を解説。障害時の復旧策も必須だ。

ITニュース解説

データベースの移行は、システムの運用において非常に重要な工程である。特に、サービスを停止させることなく、稼働中のデータベースを新しいものへ切り替える「ゼロダウンタイムデータベース移行」は、現代のシステム運用において不可欠な技術である。これは、サービス停止によって発生する収益損失や、ユーザー体験の低下を避けることを目的とする。この移行作業には、データ損失や破損といった重大なリスクが伴うため、入念な計画と慎重な実行が求められる。様々な移行シナリオがあり、リレーショナルデータベース(SQL)から非リレーショナルデータベース(NoSQL)への移行、その逆、SQLデータベース間の移行、自社環境からクラウド環境への移行、既存データベースのバージョンアップ、複数のデータベースを一つにまとめる統合などが挙げられる。

ゼロダウンタイムデータベース移行は、一般的に以下の5つのフェーズを経て実施される。

最初のフェーズは「準備と計画」である。この段階では、移行先の新しいデータベースのデータの構造(スキーマ)を設計し、移行元の古いデータベースのスキーマとの対応関係を明確にする。また、データのコピーや同期を行うツールを選定し、万が一移行がうまくいかなかった場合に古い状態へ戻すためのロールバック計画を立てる。サービスが停止せずに許容できるデータ遅延時間(SLA)も定義し、目標を明確にする。

次に「バルクロード(履歴データ)」フェーズがある。これは、移行開始時点の古いデータベースの全データを、新しいデータベースへ一度にコピーする工程である。この作業は「スナップショット」と呼ばれることもある。大量のデータを効率的に転送するために、ETL(Extract, Transform, Load)と呼ばれる種類のツールやフレームワークが利用される。データのコピー後には、件数チェックやデータの整合性チェックを行い、データが正確に移行されたことを検証する。

バルクロード完了後も、古いデータベースにはアプリケーションからの新しいデータ書き込み(追加、更新、削除)が続いている。そこで「変更データキャプチャ(CDC)」フェーズに入る。CDCは、古いデータベースで発生したこれらのリアルタイムのデータ変更を検知し、新しいデータベースに継続的に反映させる技術である。これにより、新旧両方のデータベースはほぼ同じ状態に保たれる。DebeziumやAWS DMSといった専門のツールがこの目的に使用される。

「デュアルライト」は、オプションではあるが、移行の安全性を高める上で推奨されるフェーズである。CDCによるデータ同期は非常に効果的だが、ネットワークの遅延やツールの不具合によって一時的に同期が遅れたり、一部のデータ変更を見落とす可能性もゼロではない。このリスクを軽減するため、アプリケーション自体が、データの書き込み時に古いデータベースと新しいデータベースの両方に同時に書き込むように変更する。これにより、両方のデータベースが確実に最新の状態を保ちやすくなる。通常、この機能は特定のスイッチ(機能フラグ)によって制御され、必要に応じて簡単にオンオフを切り替えられるようにする。

最終フェーズは「カットオーバーと検証」である。新旧データベース間のデータ同期が安定し、データ整合性が確認されたら、アプリケーションがデータを読み取る対象を古いデータベースから新しいデータベースへ切り替える。この切り替え作業をカットオーバーと呼ぶ。切り替えは、一部のユーザーや機能から段階的に新しいデータベースを利用させるA/Bテストのような手法を用いることで、問題がないかを確認しながら慎重に進めることが多い。切り替え後も、データが正しく読み書きされているか、パフォーマンスに問題がないかなどを継続的に検証する。万が一の事態に備え、古いデータベースはすぐに停止せず、しばらくの間は新しいデータベースと同期を維持しておく。

具体的な移行シナリオをいくつか見てみよう。例えば、「SQLデータベースからNoSQLデータベースへの移行(PostgreSQLからCassandraへ)」のシナリオがある。これは、既存のリレーショナルデータベースから、大量のデータを高速で処理できる非リレーショナルデータベースへシステムを移行する場合である。主な理由としては、爆発的に増えるデータ量への対応によるスケーラビリティの向上、センサーデータやクリックストリームのような大量の書き込みを高速に処理すること、または柔軟なデータ構造の必要性などが挙げられる。この移行では、まず既存データをPostgreSQLからCassandraへバルクロードし、DebeziumやKafkaといったツールを使ってPostgreSQLの変更履歴をリアルタイムでCassandraに同期する。アプリケーションはデュアルライトを行いながら、段階的にCassandraからの読み取りに切り替えていく。新しいデータベースが正しく機能しているか、データ件数や内容を比較検証し、問題があればすぐに古いデータベースへ読み取りを戻せるようにする。

また「NoSQLデータベースからSQLデータベースへの移行(MongoDBからMySQLへ)」のシナリオもある。これは、トランザクション処理(データの整合性を厳密に保証する機能)が必要な決済システムや銀行業務、複数のテーブルを結合して複雑な分析を行う要件、または強力なデータスキーマによるデータ整合性の保証が求められる場合に選択される。MongoDBの柔軟なドキュメント構造を、MySQLのリレーショナルなテーブル構造に変換するスキーマ設計が重要となる。データのバルク移行後、アプリケーションはMongoDBとMySQLの両方に書き込みを行い、分析やレポート作成からMySQLへの読み取りを順次切り替えていく。移行時には、データ型の不一致や欠落データがないかを厳しく検証する必要がある。

さらに「オンプレミス環境からクラウド環境への移行(PostgreSQLからAWS RDSへ)」も一般的なシナリオである。これは、自社のデータセンターで運用しているデータベースを、AWS RDSのようなクラウド上のマネージドデータベースサービスへ移行する場合を指す。クラウド移行の利点は、システムの柔軟な拡張性、バックアップやパッチ適用といった運用管理をクラウドプロバイダーに任せられること、そして初期投資を抑え、使った分だけ支払う運用コストモデルへ移行できることである。この移行では、まず既存のデータベースのスナップショットを取得し、それをクラウド上にリストアする。次に、論理レプリケーションやAWS DMSのようなツールを使って、オンプレミスからクラウドへのリアルタイム同期を設定する。最終的に、アプリケーションのデータベース接続先をクラウドのRDSに変更することで切り替えが完了する。

移行プロセス全体を通じて、システムの状況を常に監視し、検証することが不可欠である。これを「可観測性(Observability)」と呼ぶ。具体的には、新旧データベース間のデータ同期の遅延状況(ラグ)を監視したり、定期的にデータ件数や内容の比較を行うデータ検証ジョブを実行したりする。さらに、アプリケーションのエラー率やクエリの応答時間といったパフォーマンス指標を監視し、移行による影響がないかを確認する。少数のテストユーザーアカウントを利用して、移行後のシステムが正しく機能しているかを継続的に確認するカナリアテストも有効である。

どんなに綿密に計画しても、予期せぬ問題が発生する可能性は常にある。そのため、問題が発生した場合に迅速に元の状態に戻すためのロールバック計画は必須である。例えば、一時的にデータベースへの新しい書き込みを停止し、同期の遅れを解消してから再試行する方法や、機能フラグを使ってアプリケーションの読み書きの向き先を即座に古いデータベースに戻す方法がある。移行後も、一定期間は古いデータベースを「温かい状態」で保持し、緊急時に備えることも重要である。

ゼロダウンタイムデータベース移行は、単にデータをコピーするだけの単純な作業ではない。これは、バルクロードとリアルタイム同期(CDC)の組み合わせ、安全のためのデュアルライト、段階的な切り替えのための機能フラグ、そして継続的な検証と、事前にテストされたロールバック計画が一体となった、複雑で反復的なエンジニアリングの取り組みである。最も難しい部分は、データ構造の不一致、ヌル値の扱い、文字エンコーディングの問題といったエッジケースの処理や、データベースを2つ同時に稼働させながらビジネスを継続させること、そしてテストと監視体制への投資を適切に行うことである。しかし、これらを適切に実施できれば、ユーザーはシステムの基盤となる部分が交換されたことに気づくことなく、サービスを継続して利用できる状態が実現する。

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