【ITニュース解説】How a 2GB Flash Drive Led Me to Rust, Linux Internals and eBPF
2026年09月09日に「Dev.to」が公開したITニュース「How a 2GB Flash Drive Led Me to Rust, Linux Internals and eBPF」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
2GBのUSBメモリがきっかけでArch Linuxに触れ、システム監視ツール「Pulse」をRustで自作。/procファイルシステムに加えeBPFを導入し、Linuxカーネル内部のイベントまで深掘り。OSの抽象化レイヤーを剥がし、低レベル技術を探求する学習プロセスを詳述する。
ITニュース解説
ある開発者が、たった2GBのUSBメモリをきっかけに、Linuxの奥深い世界へと足を踏み入れ、最終的には「Pulse」という独自のシステム監視ツールを開発する物語がある。これは、システムエンジニアを目指す初心者にとって、コンピューターがどのように動いているのか、その裏側を知るための大きなヒントになるだろう。
物語の始まりは、開発者が父親から譲り受けた古いノートパソコンだった。わくわくしながら初期化し、Windowsを削除したが、手元には2GBのUSBメモリしかなく、再びWindowsを入れるには容量が足りなかった。そこで彼は、「2GBのUSBメモリに収まるくらい小さなOSはないだろうか?」と考えた。その答えが「Arch Linux」だった。
Arch Linuxのインストールは、私たちが普段目にするような「ワンクリック」で終わる簡単なものではなかった。ISOイメージの取得、USBメモリからの起動、ディスクの分割、システムのインストール、そして設定の全てを自力で行う必要があった。ようやく使えるようになった環境は、グラフィカルな表示(GUI)が一切ない、黒い画面に文字だけの「ターミナル」環境だった。最初は戸惑うかもしれないが、このターミナルでコマンドを打ち込み、一つ一つ設定していくことで、開発者はLinuxというOSを完全に自分のものとして制御できる楽しさに気づいていった。デスクトップ環境をカスタマイズしたり、必要なツールをインストールしたりする中で、Linuxが提供する自由度の高さに魅了されたのだ。
やがて、彼は自分のコンピューターが「今、どんな状態なのか」を知りたくなった。CPU(コンピューターの計算担当)はどれくらい使われているのか、メモリ(データを一時的に記憶する場所)はどれくらい消費されているのか、どんなプログラム(プロセス)が動いているのか、といった疑問が湧いたのだ。最初は「top」や「htop」といった既存の監視ツールを使って情報を見ていたが、すぐに「これほどカスタマイズできるLinuxなら、自分で監視ツールを作れないだろうか?」という新たな疑問が生まれた。この疑問が、彼自身のプロジェクト「Pulse」の誕生に繋がった。
Pulseは、Rustというプログラミング言語で書かれた、ターミナル上で動作する(TUI)Linuxの監視ツールだ。開発の目的は、単に既存のツールを使うだけでなく、それらのツールが表示している情報が「どこから来ているのか」を理解することだった。この探求が、彼を「/proc」というLinuxの特別なファイルシステムへと導いた。
/procファイルシステムは、Linuxカーネル(OSの最も中心となる部分)が、実行中のシステムに関する膨大な情報を「ファイル」のように公開している場所だ。例えば、「/proc/stat」にはCPUの使用状況に関する生データが、「/proc/meminfo」にはメモリに関する情報が記録されている。Pulseは、これらの/proc配下のファイルから生のデータを読み取り、それを私たちが理解しやすい「メトリック」(数値で表される性能指標)に変換して表示する。開発者はここで、CPU使用率のような情報も、OSが直接提供してくれるものではなく、複数の生のカウンター値を時間と共に比較して「計算」して初めて得られるものだと知った。これは、単に情報を表示するだけでなく、システムがどのように情報を「公開」しているかを深く学ぶ経験となった。
Pulseの開発言語としてRustが選ばれたのには明確な理由があった。Rustは、オペレーティングシステムやハードウェアに近い「システムプログラミング」という分野で非常に強力な力を発揮する言語だ。開発者は、低レベルな概念、複数の処理を同時に実行する「並行処理」、メモリの管理、そして長時間稼働するアプリケーションの開発に慣れたかった。特にRustが提供する「メモリ安全性」は、常に変化し続けるシステムと対話する監視ツールにとって大きな魅力だった。プログラムが不正なメモリ領域にアクセスするのを防ぐことで、システムの不安定化やクラッシュを防ぎやすくなる。Rustはまた、プログラムの構造化について深く考えるきっかけにもなった。
/procを使ってシステムの現在の状態を監視できるようになったPulseだが、開発者はさらに奥深くを知りたくなった。「他に何を監視できるだろうか?」「もっと速く監視できないだろうか?」という問いが生まれたのだ。/procは現在の状態を把握するのに優れているが、彼はシステム内部で発生する「イベント」を知りたかった。例えば、新しいプログラムが起動した時(プロセスの生成)、プログラムがOSに処理を要求した時(システムコール)、ネットワーク通信が行われた時、カーネル内の特定の機能が実行された時などだ。この探求の先に「eBPF」という技術があった。
eBPFは、Linuxカーネルのソースコードを直接変更することなく、カーネル内部で小さなプログラムを実行できる画期的な技術だ。これにより、システムコールやネットワークイベントなど、カーネルレベルの様々な活動に「プログラムをアタッチ」(結合)して、その場で情報を収集し、ユーザーが使うアプリケーションに送り返すことができる。/procが「今何が起きているか?」という問いに答えるのに対し、eBPFは「何が起きたのか、そしてなぜ起きたのか?」という、より深い問いに答えることを可能にした。Pulseのアーキテクチャは、/procからの情報とeBPFからの情報、両方を組み合わせて利用する形へと進化し、単なるシステムモニターから、Linuxの「オブザーバビリティ」(システムの内部状態を外部からどれだけ詳しく観察できるか)を学ぶための「遊び場」へと変貌を遂げた。
Pulseの開発を通じて、開発者が得た最大の教訓は、私たちがコンピューターの画面で見る情報と、オペレーティングシステムが実際にその裏側で実行していることとの間に、いかに多くの「抽象化」が存在するかを実感したことだ。普段何気なく「htop」で見ていたCPU使用率やメモリ使用量、プロセスといった数字の裏側で、Linuxがどのように情報を公開し(/procなど)、アプリケーションがその情報をどのように解釈し、生のデータからメトリックをどのように計算しているのか、そしてeBPFを使うことでカーネル内部の活動を直接観察できることなど、幾重にも重なる層があることを知った。このプロジェクトは、まるで玉ねぎの皮を剥くように、コンピューターシステムの奥深い層を一つ一つ明らかにしていく作業だった。
「CPUはどれくらい使っているだろう?」という単純な疑問から始まったこの旅は、/proc、Linux内部、システムプログラミング、Rust、オブザーバビリティ、eBPF、そしてカーネルインストゥルメンテーションといった、全く異なるコンピュータサイエンスの領域へと彼を導いた。ソフトウェア開発の醍醐味は、まさにこの「小さな疑問から掘り下げていき、思わぬ深層にたどり着く」ことにあると彼は語っている。
Pulseはまだ開発途中だが、開発者は特にeBPFを使った監視機能の拡張に力を入れたいと考えている。ネットワーク活動の監視や、その他のカーネルレベルのイベントの追跡など、探求すべきことは尽きない。このプロジェクトに明確な「最終形」はまだないが、それがかえって良いと彼は感じている。「私のマシンで実際に何が起きているのか?」という問いを追求し続けることが、彼のモチベーションになっているのだ。
Pulseは、Linuxのシステムプログラミング、Rust、オブザーバビリティ、eBPF、カーネルインストゥルメンテーション、そしてターミナルUI開発を学ぶための貴重な学習ツールとなった。私たちが普段当たり前だと思っているコンピューターの「抽象化」の裏側で何が起きているのかを学び続けるため、このオープンソースプロジェクトは今後も進化していくことだろう。